第67話

「どうした?なぜ冒険者がやってこない!」


 テーブルマウンテンの件の会議室では1人の男、セルゲイが部屋で叫んでいた。


「この街の危機を感じたものと思われます」


 ミーシャが冷めた声で答える。老人以外の他の2人は黙ったままだ。彼らの目算が大きく外れて城門の外の魔獣は毎日増え続けており今では城壁から見るだけでも100体近くの魔獣が城壁の周囲を取り囲んでいる。


「下賤のくせに、こんな時に私たちに協力しないでどうする。せっかくチャンスをくれてやっているというのに。商売したいのはお前達だろう。このテーブルマウンテンの鉱産物をわざわざ売ってやってるのに自ら逃げるとはどういう事だ」


 憤懣やる方ないと言った表情で1人で捲し立てているセルゲイ。


「セルゲイ、落ち着くんだ。ここで叫んでも状況は何も変わらない」


 老人がセルゲイを窘めた。そしてミーシャに顔を向けると、


「ミーシャ。街の食料はどうなっておる?」


「はい。正直あと1ヶ月とちょっとで備蓄在庫がなくなります。城壁の中にある果樹園の果物が多少ありますがとても市民全員を長期間まかなえる量はございません」


 ミーシャが老人に言った。わかったと頷く老人。


「さて諸君。事ここに至るともう打つ手は1つしかない。セルゲイの読みが間違っていたことについては事が落ち着いてから改めて話をしよう。今は城壁の周囲におる魔獣の討伐と坑道内の魔獣の駆逐が最優先だ」


 老人に自分の判断ミスを指摘されてセルゲイは真っ青な顔になる。老人はそんなセルゲイの表情や態度はどこ吹く風で


「ここから鳥便でリッチモンドに救援を出す。報酬とやってもらう仕事も明記してだ」


 そうしてセルゲイの隣に座っている男性にその手配を指示する。


「畏まりました。直ちに」


「そして諸君らは坑道の魔獣退治後に備えて穴を封鎖する扉の製作の準備や人員の確保にはいって貰う。スムーズに仕事に入れる様にしっかりと準備してくれ」




「そういう訳だ。恐らくそう遠くない数日以内にはテーブルマウンテンから救援要請が来ると思う。その時はケーシーのパーティと一緒に現地に向かってもらいたい」


「クエスト扱いだな?」


「そうなる」


 ギルマスのウィンストンの説明を聞いたデイブが言うと首を縦に振りながら答えるギルマス。


「わかった。明日から数日は城内で待機しよう」


 ギルマスの部屋を出た2人は宿の1階の食堂で夕食をとりながら話をする。


「思わぬ形で訪問することになったな」


 料理を突き刺したフォークを口に運びながらダンが言う。


「選民思想の強い奴らが下々の俺らに救援要請だ。よっぽど困ってるんだろう」


 そう言って同じ様にフォークを口に運び、それを咀嚼して飲み込むと、


「推測だがあいつらは戦闘経験がゼロだ。魔獣のランクも分かっちゃいないだろう。だから実際に行ってみたら高ランクがいる可能性もあるぞ」


「どうしてだ?」


 ダンが言うとデイブは周囲を見渡してこちらの声が聞こえないのを確認すると、それでも身をダンに乗り出して小声で言う。


「オウルの洞窟を思い出せよ」


 その言葉であっと気がついたダン。


「その横穴が続いている先が山の中だとしたら高ランクの生息地か」


「その通り。だから現地に着いたら俺とお前が先陣切って高ランクを中心に倒しまくる。ケーシーらには低ランクのやり残しを処理してもらった方が効率的だ」


「そうだな。それが一番効率的だろう。でもケーシーらはそれでOKするかな?」


「一応俺が話をするが俺の勘だと奴らもそう考えていると思うぜ。前線は俺達で自分たちはフォローに回るって」



 その2日後の夕刻、鳥便がリッチモンドに飛んできた。手紙を受け取ったウィンストンはすぐにケーシーのパーティとダンとデイブに招集をかけた。


 ギルドの会議室に集まってきた7名を前にしてウィンストンが説明をする。


「テーブルマウンテンから正式に救援要請が来た。具体的にはまずは城壁の周囲にいる魔獣の駆除、それからテーブルマウンテンの鉱山に入って壊れた坑道から通路に入りそこにいる魔獣の駆除の2件だ」


 そういてウィンストンが今回の魔獣発生の原因についてテーブルマウンテンからの手紙に書いてある内容をメンバーに言う。


「なるほど。彼らが掘っていた坑道が崩れて横穴ができた。その穴は山と繋がっていてそこから魔獣が大量に侵入してきているってことだな」


 ケーシーの言葉に頷くギルマス。


「そうだ。お前達はまず城壁の周囲の魔獣を倒しその足で鉱山の中に入ってそこにいる魔獣を殲滅する。殲滅後はテーブルマウンテン側が用意する鉄の扉で穴の入り口を塞ぐらしい。その間の安全確保までだ」


 ウィンストンの話が終わるとケーシーらは仲間と少し話をしてからギルマスを向き


「わかった。受けよう」


 と言う。隣に座っていたダンとデイブも


「こちらも問題ない」


 7人がOKしてホッとするウィンストン。


「今回は急を要するのでギルドから馬車を仕立てる。少しでも早く着いた方が良いだろうからな。現地では備蓄の食料も乏しくなってきているらしい」


 ダンとデイブは野営の準備をし翌朝ギルドの前に行くとそこには2頭の馬に引かれた馬車が用意されていた。


 すぐにケーシーらのパーティもやってきた。ギルドから出てきたウィンストンは7人揃ったのを見ると、


「頼むぞ」


 馬車は7人を乗せてリッチモンドの街を出て荒野をテーブルマウンテン目指して進み出した。


 馬車の中でデイブが現地での作戦を説明する。ダンとデイブが先頭で魔獣の群れに突っ込んで高ランクを中心に討伐していく。ケーシーらは遅れて俺たちのやり残しの処理をお願いしたい。


 デイブの話を聞いたケーシーが言う。


「俺たちもその作戦を考えていたんだよ。ノワール・ルージュにとちゃあランクAやSは雑魚だろう。2人には高ランクを中心に討伐してもらって後ろに流れてきたやつが俺達の担当で問題ないな」


「あともしテーブルマウンテンの偉いさんが出てきたらそっちの応対は任せる。俺達はヴェルス出身だし街と街との付き合いなんてわからないんだよ」


 デイブの言葉にはケーシーらのメンバーも苦笑する。


「俺達だってよく知ってる訳じゃない。でもデイブの言う通りだろう。テーブルマウンテンに冒険者を派遣しているのはリットモンドのギルドだ。だから俺達で対応するよ」


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