第68話


 リッチモンドを出て14日目、徒歩より1週間程早くテーブルマウンテンの山が視界に入ってきた。名前の通りに山の上が平になっていてそれがかなり広い。テーブルマウンテンの奥には同じ高さ山々が連なっているのが見えている。


 馬車は山裾、テーブルマウンテンにつながるスロープの前に止まる。ダンとデイブにとっては初めてのテーブルマウンテンだ。聞いていた通りに山裾に沿って緩やかなスロープが頂上まで続いている。


 馬車を降りた7人、ダンとデイブを先頭にし、その後にケーシーら5人。そしてその後に馬車が続く。馬車を山裾で待たせておくと万が一魔獣が襲ってきた時に対応できない。山の上まで上げた方が逆に安全だ。


 なだらかなスロープを登って行くと先頭を歩くダンとデイブの足が止まる。後ろを振り返り、


「魔獣の気配がある。馬車はここらで待っておいてもらおう。俺達で上に上がって俺とダンで登り切った上にある広場で戦闘をする。そっちはスロープの方に流れていくのを頼む」


 わかったというケーシー。ダンをはじめ前衛は全員抜刀して最後のスロープを登っていくとこちらに気がついた魔獣がうなり声を上げてスロープを降りてくる。


 ダンは魔獣を見た時からダッシュでスロープを登り、降りてくる魔獣とすれ違い様に両手に持った片手剣を振って次々と魔獣を倒しながら登っていく。後ろからデイブも精霊魔法で次々と倒していく。


「ランクBクラスが相手とは言え、剣も魔法も半端ない強さだ」


 後からスロープを駆け上がりながらスピースが大きな声を出す。


「広場は2人に任せよう。こっちはスロープを上ったところで敵とやるぞ」


 ケーシーの言葉に全員が返事をする。広場には100体以上の魔獣がいたが登ってきた2人を見つけるとその多くがこちらに向かってきた。


ダンとデイブは広場に出ると片っ端から倒していく。数が多いがランクBやAをあっという間に倒していく2人。


 魔獣の中には彼らの背後にいる5人を見つけ、そちらに向かっていくがケーシーらのパーティが危なげなく討伐していく。


 そうして広場に上がって30分ちょっとでそこにいた100体以上の魔獣を倒し切った7人。デイブは広場をぐるっと見てから顔をケーシーに向ける。


「ケーシ、悪いがこの街の奴らに話をして魔獣の死体の処理と、それから死んだ住民の遺品を集める様に言ってくれないか」


 広場には魔獣の死骸以外に衣服や小物が散乱している。それらを見てわかったというケーシー。そこで初めてダンとデイブもこのテーブルマウンテンの全景を見た。頂上は想像以上に広くなっていた。平らではなくて起伏はあるもののそこには芝生や低木も生えている。


 そしてその頂上、彼らの目の前に城壁に囲まれている街が見えていた。街は大きくて城壁は相当奥まで伸びているのが見える。


「俺とダンはあっちに行く。どうやらあっちが鉱山の方みたいだ。あそこで出てくる魔獣を処理しているので誰か案内を呼んでくれ。勝手に鉱山に入る訳にはいかないだろうからな」


 頂上を一通りみたデイブはそう言うとダンと2人で城壁にそって奥に歩き出していった。


 ケーシーは城壁の上から外を覗き込んでいるやつを見つけると大声で


「ここらの魔獣は倒した。城門を開けてくれないか。鉱山の案内が必要だ」


「ちょっと待て」


 声が返ってくるとしばらくして城門がゆっくりと左右に開いていった。そうして中から白いローブを着た女性と男性を先頭に10名ちょっとの住民が門から出てきた。住民は作業着の様な服装だ。おそらく鉱山に関係のあるもの達だろうとケーシーは予想した。


「討伐ありがとうございました」


 白いローブを着ている女性が頭を下げて礼を言う。同じローブを着ている隣の男性は突っ立ったままだ。


「広場に魔獣はいない。魔獣はこのまま放置しておくと腐って匂いがするし最悪アンデッド化する。どこかに穴を掘って燃やしてから穴を埋めるといい。それと魔獣にやられた住民の服や私物が散らばっている。集めた方がいいんじゃないか?」


 白いローブを着て突っ立っていた男が何か言いかけたがそれを女性が制して言った。


「お気遣いありがとうございます。魔獣の処分と遺品の回収はこちらで致します」


 頷くケーシー。


「それと、ここにいる5人以外に2人が鉱山の方に行っている。魔獣が出てきたら倒す為だ。そちらにも人を派遣してもらいたい。俺達だけで鉱山にはいるのはまずいだろうからな」


 その言葉にびっくりする女性。


「こちらに5人、そして2人が鉱山に向かっているということは7名でこの魔獣の群れを討伐されたのですか?」


 その言葉にそうだというケーシーと頷く他のメンバー。黙っていたスピースが口を開いた。


「俺達は魔獣を倒すのが仕事だ。慣れているからな」


「なるほど」


 女性はそう言ってから背後の作業着を着ている連中に鉱山区に向かう様に指示を出した。ケーシーらも彼らと一緒に鉱山区に向かって歩いてった。


 冒険者達が離れていくと女性の背後に立っていたローブ姿の男が言った。


「魔獣の始末など冒険者にさせればよろしいものを」


 ポボフの言葉を聞いたミーシャ。振り返って男性を見ると、


「魔獣の処理だけなら私もそう言ったでしょう。でもあの中には市民の遺品も含まれています。魔獣の犠牲になった人々の遺品を集めそして供養するのは我々の仕事です。魔獣の討伐はお願いしましたが後処理はこちらでやるのが筋でしょう」


 そう言うと男は何も言うことができなかった。ポボフはセルゲイの部下だ。セルゲイと同じ様に選民思想が身についている。セルゲイの作戦が失敗した後その後任として任命されたが前任と何ら変わらない男だった。


 ケーシーらが作業員の市民と鉱山区に着いた時に、鉱山の入り口周辺にはダンとデイブが倒した魔獣がそこらじゅうに倒れていた。


「こっちにも結構いたぞ」


 近づいてきたのを見てデイブが言った。


「それで全部倒したんだろ?」


「入り口付近はな。中はまだ許可がないから降りていないがいるのは間違いない」


 ケーシーが作業員を見ると降りてもらって結構だと言う。ダンとデイブを先頭に一向は斜めに掘られている穴を降っていく。途中で上がってくる魔獣と遭遇するがダンが剣を一閃して倒して坂を降りるとそこはちょっとした広場になっておりそこから放射線状に坑道が伸びていた。


 その場でじっとしていると1本の坑道の奥から魔獣が飛び出してきた。それを倒したダン。デイブと顔を見合わせてから


「今見ただろ?この坑道が崩れた坑道の様だ。俺とデイブで奥まで進んでいくがケーシーらはここで待機してもらえるか?ひょっとしたら他の坑道から出てくるかもしれないからな」


 そう言うとダンとデイブは魔獣が出てきた坑道に入っていった。ケーシーと作業員の市民は魔獣の死体を上に上げ、そうしてここで魔獣にやられて死んだ市民の遺品を集めてはそれらも地上にあげる。


 さっきの広場でもそうだったがここでも遺品はあるが市民の死体は全くない。それがどういうことかをわかっているのでケーシーらは口にせず、遺品を集める作業を見守っている。


 ダンとデイブは魔獣が出てきた坑道を奥に進んでいく。採掘をしていた様で坑道は綺麗に削られていて足元も歩きやすい。そうしてしばらく進んでいくと坑道の先に崩れた壁があり見る限りそこから奥に坑道とは違う洞窟の様な通路が伸びているのが見えた。




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