第66話

 テーブルマウンテンの異変に気づいたのは3日後に山裾にやってきた冒険者達だった。この街は商売ができる日が決まっており、商人達はその前日に山裾にやってきて野営をしてから翌朝早くから緩やかなスロープを登って山の上にあるテーブルマウンテンの街に行き、広場で商売をして夕刻にまたスロープを降りて山裾で野営をして翌日にそれぞれの次の行先に出向いていく。


 商売の日の前日にはラウンロイドとリッチモンドからやってきた商人の馬車が合計で10台以上山裾に集まっていた。


 当然その商人を護衛している冒険者も同じ様に集まってきていて、1台の馬車につき5名程の冒険者が護衛しているので50名程の冒険者も山裾で野営をする。


 翌朝先頭の馬車がスロープを上がり始めた。するとすぐにその護衛をしている狩人の女性が大声を出した。


「山の上に魔獣がいる、かなりの数よ!」


「何だって!」


 その声を聞いた後続の馬車を護衛している冒険者の狩人達も同じ様にスキルであるサーチを使い声を上げる。


「30体以上、しかもランクBだけじゃなくランクAもいるわ!」


 先頭を進んでいた馬車が止まった。ラウンロイドから護衛で来ていたパーティリーダーが商人に


「どうする?」


「ちょっと待ってください。すぐに他の商人と相談します」


 と馬車を降りていった。冒険者達も皆集まってきた。


「30体以上でランクAもいる。俺達はランクBだがどうする?」


 そういうと周囲からも俺たちもランクBだと返事が返ってきた。ランクAのパーティはいない様だ。ラウンロイドやリッチモンドからここテーブルマウンテンへの街道は安全と言われていて魔獣自体があまり現れない。そして現れてもランクC、たまにランクB程度の強さなのでこの街への護衛クエストはランクBの冒険者のクエストとして両方の街で定着している。


「サーチにかかる範囲で30体以上だろ?上に登ればもっと増えるかもしれん。そして登れば俺達が見つかる可能性が高くなる」


 後ろの馬車を護衛していたパーティのリーダーが近づいてきて言った。すると他からも


「まだ死にたくないしな」


「そうそう」


 という声がする。冒険者としては依頼主の意向は尊重する必要はあるが自分の命と引き換えにするまで義理立てする必要もない。


 しばらくすると商人が戻ってきた。


「商人の間で話をしました。危険を冒す訳には行きません。今回は引き返しましょう」


 そうして今後は最後尾から順に山裾に降りてそこで一旦集まる。その場で今回はこのまま引き返すことになったと商人が説明し護衛している冒険者も皆納得する。


 10台ちょっとの馬車はその場で回れ右をするとそれぞれ元来た道を引き返して行った。そして途中で次の市に合わせてテーブルマウンテンに向かう馬車群と出会うと現地の状況を説明する。


 最初は疑っていた商人もいたが戻ってきた馬車の荷物を見るとこちらの売り物ばかりだったのを確認すると、


「私たちもやめておきましょうか」


「あいつらが魔獣を倒せるとは思えない。となるとまだ街の周辺にうじゃうじゃいるってことだ。ランクAがいる中に突っ込んでいく気はないな」


 冒険者達も商人の決定を支持する。そうして途中まで来ていた商人達も回れ右をして街に戻っていった。


 ラウンロイド、リッチモンドに戻った冒険者はそれぞれのギルドにテーブルマウンテンでの様子を報告した。


 ラウンロイドのギルマスのリードは商人からも事情を聞いて状況を理解し冒険者にはクエスト放棄にはならないから安心しろと言う。そうして一人になると


「テーブルマウンテンか。リッチモンドから討伐隊が出そうだな」


 とつぶやいた。


 

 そのリッチモンドのギルマスのウィンストンも同じ様に冒険者と商人から報告を受けていた。彼らの報告が終わって会議室を出て行くと受付に顔を出し受付嬢にケーシーのパーティがギルドに来たら呼んでくれと頼んだ。



「どうしたんだい?」


 部屋に入ってくるなりパーティリーダーのケーシーがウィンストンの顔を見ながら聞いてきた。


 夕刻になって外から戻ってきたケーシーらのパーティがギルドに顔を出すと受付からギルマスが話があると言うのでやってきたのだ。


 全員が座るとウインストンがテーブルマウンテンの状況を説明する。最初はリラックスして聞いていたメンバーの表情が途中から真剣なものになっていった。


 黙って聞いていたメンバーはギルマスの話が終わると、


「引き返してきて正解だろう。その山の上にどれだけ魔獣がいるか分からない。狩人のサーチも限界があるしな。ひょっとしたらランクAがもっと多くいたり下手すりゃランクA以上がいる可能性だってある」


「お前さん達の言う通りだ。彼らランクBの連中は引き返してきて正解だ。それはいいとしてこことラウンロイドの冒険者が出向かない限り魔獣は居続けるだろう。食料も乏しくなるしどこかのタイミングで救援要請が来るかもしれない。お前さん達は悪いが遠出をせずに準備だけはしておいてもらいたいんだよ」


 ウィンストンがケーシーに答えて言う。

 それは構わないがとケーシーが前置きしてから、


「ノワール・ルージュの二人にも言っておいた方がいいぜ」


 と言った。


「俺もケーシーの意見に賛成だ。万が一高ランクが複数体いたら奴らでないと対処できないだろう。テーブルマウンテンに行く時は彼らも一緒に行ってもらえると俺たちも安心だ」


 スピースが続けて言った。


「わかった。ヴェルスの2人組には俺から話しておく」


「逆に言うとノワール・ルージュが行くならあとは俺達のパーティだけでも十分だろう。あいつらは2人だけで十分に主戦力になるからな」


「お前達5人とやつら2人で十分か?」


「問題ないな。ギルマスもあいつらの実力は知ってるだろ?下手に大勢で行くより小人数で暴れさせた方が効率がいい。俺たちはあいつらが倒し損ねた魔獣の処理だ。ひょっとしたら倒し損ねるのがいないかも知れないがな」


 ケーシーの言う通りだ。人を大勢派遣すれば良いというものでもない。ダンジョンの下層でランクSSを相手にスキル上をしている一騎当千の2人ならまず問題ないだろうとウィンストンも同意した。

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