第17話

 商人のサムは目の前の2人の話を聞きながら彼らの評価を大きく上げていた。商売柄冒険者を護衛にして移動する彼は常に冒険者を見ており彼なりの目利きができる。

 

 今回護衛を頼んだリチャードのパーティも決して弱い訳ではなく、以前も何度か護衛を頼んだこともあるくらいでその腕についてはサムも信用している。


 たまたまランクAの魔獣が4体という想定外の事態になったが彼ら5人は荷物と馬、そして自分を守りながら戦ってくれていた。


 ただそこに現れたこの2人。サムは2人が現れてからの戦闘を見ていたが正直ランクBとは思えない剣裁きだった。2人とも2本の片手剣を自在に操ってあっという間に4体の魔獣を倒している。何か事情があってランクBのままなんだろう。そして今のやりとりから剣術だけじゃなく人間性も優れていると判断する。相手に気を使うことができている。強いだけじゃなく人間的にも立派な冒険者達だ。

 

 そう思ったがサムはそれを表情にも言葉にも出さずに


「そうですか。ほとんど死んでましたか、なるほど。いずれにしても助けていただいてありがとうございました。おかげで荷物も馬も無事でした。リチャードさん達にも大きな怪我がなくてよかった」


 商人がそう言ったのをきっかけにダンとデイブは立ち上がると


「じゃあ俺達は北に向かって行くよ。あんた達はここから南向きだが俺達が南から歩いてきたときは現れる魔獣はせいぜいランクBクラスだった」


「ありがとう。北方面もここまではそんなに魔獣に合わなかったんだ」


 情報交換をしてからお互いに気をつけてなと言ってダンとデイブは街道の方に歩いていった。その後ろ姿を見ながらロンが、


「強かったな」


 そう言うとリチャードも頷いて、


「奴らはああ言ってたけどおそらく最初からランクA4体を相手にしてもあいつらなら普通に倒すだろう。それくらいの力はありそうだ」


「それでランクB、何か事情がありそうだな」


 とケビンが言う。


 

 街道に戻った2人は周囲を警戒しながら歩いて途中で野営をし、出会う敵、と言ってもランクBばかりだったが、を倒しては街道を北に進み、ヴェルスを出てから25日目にラウンロイドの郊外にある村に着いた。


 久しぶりに宿に泊まり暖かい料理を食べた2人。


 その後はトラブルもなく28日目の昼前にラウンロイドに着いた2人はギルドカードを見せて街の中に入っていく。


 ラウンロイドも大きな街だ。聞くとヴェルスとほぼ同じか少しだけ小さいくらいだと言うが見た感じはヴェルスもここも大きな街に見える。ヴェルスと同じ様に草原の中にある街で遠くには高い山々が見えている。


 2人はとりあえずラウンロイドの冒険者ギルドを目指した。途中で倒した魔石の換金とギルドからおすすめの宿を教えてもらうためだ。


 ギルドはすぐに見つかった。どこの町でも城門から入った大通り沿いにギルドがある。この町も門を入って大通りを歩くとすぐにギルドのマークが着いた建物が目に入ってきた。


 扉を開けて中に入る2人。昼過ぎという時間なのかギルドの中は人が多くなく、受付に並んでいる冒険者もいなかった。中を見ると酒場に何名かが座って打ち合わせをしているのが見えた。


 2人はカウンターに近づくと挨拶をしてきた受付嬢に挨拶を返し、ギルドカードを渡した上で魔石の換金とこの町でのおすすめの宿を教えてもらう。


 ギルドを出ると教えてもらった宿に向かいながら通りを歩く2人。初めての街なのでどうしてもキョロキョロしながら通りを歩く。


「似てる様で街並みとかもヴェルスとは違うよな」


 独り言を呟きながら通りの左右を見て歩くダン。この世界に来て2つ目の都市だ。興奮しまくりの表情になっている。


「ダン、気がついていたか?この街の城壁」


 キョロキョロしているダンにデイブが話かけてくる。


「ああ。ヴェルスの城壁よりずっと高くて幅もあった。なんでここまでと思うほど頑丈に作ってあるな」


 浮ついた表情をしているがダンも見ていたのだ。


「強敵が外にいるんだろうか」


 そんな話をしながら通りを歩いてギルドが勧めてくれた宿屋を見つけると中に入る。部屋は空いていたので2部屋取ってから旅館の1階にある食堂で旅の疲れをとりつつ昼食を取ることにする。


 注文を取りに来た若い女性の店員に料理をオーダーした後でデイブが、


「ところで俺達ヴェルスから来たんだけどこの街の城壁がヴェルスに比べると高くて頑丈なんでびっくりしたよ」


 そう言うと店員が


「最初この街に来た人は皆そう言いますよ」

 

 と言って城壁が高くて頑丈な理由を説明する。


「この街を治めている領主様の考えで高く頑丈な塀にしているんです。何でも今は都市国家間は仲がいいけど未来永劫仲が良いという保証はない。常に最悪の事態を想定しておくんだってことらしいです。もちろん外にいる魔獣が入らないという本来の目的もありますけどね」


 そう言って厨房の方に歩いていった。2人が注文した料理を厨房の奥に向かって言う声がここまで聞こえてくる。ダンは店員の背中に向けていた視線をデイブに移すと、


「いろいろな考え方があるんだな」


「領主の意向か」


「ここから一番近い街って俺達がいるヴェルスだろ?」


 ヴェルスとの戦闘を想定しているのかという意味を込めて聞くダン。


「違うかもしれないぞ」


 デイブはそう言う。どう言うことだという表情をするダン。


「以前俺がお前に見せた地図、あれはあくまでヴェルスを中心にした簡単な地図だ。俺が知り合いから聞いた情報を集めただけの落書きに毛が生えた様なものさ。ラウンロイドを中心にした地図になると俺達が知らない街がある可能性がある」


「なるほど」


 さっき話をした店員が2人分の料理を持ってきた。それをテーブルに置いたところで


「ところでこの街から近い街ってどこがあるんだい?」


 デイブが聞く。


「ヴェルス以外だとリッチモンドかな。ここから徒歩で20日ちょっとですね」


 そう言ってしばらく躊躇ってから


「あとはテーブルマウンテンって街もありますよ」


「テーブルマウンテン?」


 店員の言葉に王蟲返しの様にデイブが言うと、


「ここから北西にずっと、そうですね30日近く歩くと山頂が平らになっている山があるんですよ。その山頂の平らな部分に街があってそれがテーブルマウンテンという街になっています。街ができるくらいだからその山頂の平な部分は相当広いらしいんですけど」


「らしいってどう言うこと?」


 ダンが聞くと店員は小声になる。


「自分たちは天に一番近い場所に住んでる選ばれた民だっていって他の街の人は一切街の中には入れないんです。私たちみたいに平地に住んでいる人を馬鹿にしてるって話を聞いたことがあります」


「でもそうなると外から物資が入ってこないじゃない。山の上だと何も無いんだろうし」


「ええ。だから街の外に商人が店を出す場所を提供しているんです。住民は街から外にでてそこで買い物をするらしいですよ。でも外部の人間は街には入らせない」


「徹底してるな」


「ただテーブルマウンテンでは金だか鉄だかが獲れるらしくて街の人はお金持ちが多いんですって、だから商人も待遇が悪くてもその山の上に出かけていくそうです。持ち込んでいった品物を売って金だか鉄を買っては他の街で売るんですって」


 デイブは店員にいろいろありがとうと言ってチップを渡した。店員がテーブルから離れると、


「聞いていただけで腹が立ってきたぞ。テーブルマウンテンってめちゃくちゃ排他的な街じゃないか」


 ダンが怒りを顔に出していっているのを聞いてデイブは笑ってから


「いいんじゃないの?俺達が行くことはないだろうし。それにだな、山の上に街があるってことはまず魔獣に襲われるリスクがないってことだ。冒険者もいないかもしれないぜ。何せ街から出ないんだからさ」


「そう言われればそうか。つまり俺達にとっては無縁の街ってことだ」


 冷静なデイブの言葉を聞いてダンもようやく落ち着いてきた。


「となるとリッチモンドを想定しての頑丈な城壁かな?」


「具体的にどこかって事じゃなくて有事を想定してるってことなんだろうな」


 デイブの言葉にダンはなるほどと感心することが多い。今も言われてみれば確かにそうだと思っていた。いずれにしてもこの街の城壁なら相当持つだろう。


「テーブルマウンテンは横に置いておいてだな。とりあえずラウンロイドまで来ることができた」


 デイブが食事をしながら話をするのをダンも同じ様に料理を口に運びながら聞く。


「せっかく来たのにすぐに戻るのは勿体ない。この町でクエストをこなしたりダンジョンに潜ったりしないか?」


「いいな。違う場所ってのも新鮮だよ」


 ダンも同意したので今日は宿でゆっくりと休んで明日の朝にギルドに顔を出すことにし、食事を終えた2人は早々に部屋に戻って旅の疲れを取ることにした。

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