第18話

 ダンとデイブがラウンロイドの街に着いた頃と前後してリチャードのパーティも無事に商人のサムを護衛してヴェルスの街に着いた。


 城門を潜ったところで馬車に乗っているサムが隣を歩いているリチャードに、


「ご苦労様でした。この予定通り街で2週間いますから2週間後の朝にギルドの前でお願いします。急ぎがあれば私の定宿にきてください」


 サムは今回リチャードのパーティをラウンロイドとヴェルスの往復の護衛として雇っている。彼らの性格と戦闘スキルは知っているし長い移動では気心の知れている冒険者の方が気を使わなくても良い。リチャードもじゃあまたと言って彼らはギルドに向かっていった。


 リチャードのパーティにしても往復の護衛クエストが約束されているサムの護衛はウエルカムだ。もう何度も護衛をして彼の性格も知っている。冒険者に無理難題をふっかけずに常に冷静なサムはリチャードに取っても良いお客だった。もちろん護衛代も十分にもらっている。お互いにウインウインの関係ができていた。


 リチャードらと別れたサムはヴェルスの常宿になっている市内にある高級旅館に馬車を向ける。旅館に隣接している倉庫の様な厩舎に馬車を入れるとすぐに中から従業員が飛び出してきた。彼とも顔馴染みのサムは頼むよと言って馬車を降りると旅館に入っていく。


 この旅館は大きな馬車と荷車をそのままの状態で預かってくれるのだ。厩舎はちょっとした倉庫の様で、建物は屋根付きで扉には鍵もついて常時中に旅館の従業員がいる。荷車の荷物を盗まれる心配が無いのがありがたい。


 この旅館に泊まり、馬と荷車を切り離し馬はこの厩舎に繋ぎ、そして切り離した荷台から荷物を取り出すと市内のあちこちにいる得意先に商品を納め、そしてこの街で新しい商品を買い付けてまたラウンロイドに戻るというのがサムのルーティーンになっていた。


 サムは着いた日は旅館の部屋でゆっくりと休んで翌日からこの街で仕事を開始した。馬車の荷台に積んでいた荷物をいくつか取り出すと取引先に持っていき納品をして代金をもらう。ただ納品して代金をもらって終わりじゃなく訪れた客と雑談をするのも仕事だ。


 お客はラウンロイドや他の街の様子を聞きたがり、サムはこの街の情報を仕入れる。商品以外に情報のやりとりも重要な仕事だ。


 きな臭い噂があればしばらく街には来ない様にしようとか新しい鉱山を開発して街が豊かになりそうだと聞けばじゃあ高級品が売れるなとか。足で稼がないと情報は入ってこない。


 

 この日サムは宿で借りた小ぶりの台車に箱をいくつか乗せて市内の大通りから細い路地に入って一軒の店の扉を開けた。


「いらっしゃい。こんにちは、お久しぶり」


 レミーが中から出てきてサムを見ると挨拶をする。


「こんにちは。頼まれていた防具でいいのが手に入ったから持ってきたよ」


 そう言ってサムが箱を下ろすと早速開けて中を見るレミー。商品を1つ1つ手に取って見て納得した表情になる。


「うん。いいわね。サムが選んでくるのに間違いは無いって知っているけどそれにしても毎回私の無理なお願いに応えてくれてありがとう」


「いやいや、レミーの防具屋はうちのお得様だからね。これくらい当然だよ」


 商品を確認して代金を受け取ると雑談タイムだ。レミーは奥からお茶を持ってきてテーブルの上に置く。


 他のお客の時と同じ様に街の様子を聞き、代わりにラウンロイドや街道の様子を話す。


「それでラウンロイドからこの街に来る街道でランクAの魔獣4体に襲われてね」


 と言ってサムがその時の話をしだした。


「護衛の連中はランクBなんだけどもう何度も私の護衛に付き合って貰っている。私もそれなりに冒険者を見る目がると自負しているが、彼らはランクBでも上位だろうと思ってるんだ。ただやっぱり4体のランクAはきつかったみたいでかなり形勢が不利になってきてね、こりゃやばいなと思った時に街道を歩いていた2人組が助けに来てくれて、あっという間に2人で4体のランクAの魔獣を倒したんだよ」


「へぇ、運がよかったね。ランクBの5人パーティでランクA4体は正直きついわよ。それにしてもその2人組は2人でランクA4体を倒したの?」


 お茶を飲みながらの会話だ。レミーが言うとそうなんだよと言ってから


「倒した後で話をしたんだが彼ら2人が言うにはあの4体はほとんど死に体だった。だから倒せたんだとね。護衛をしている5人が体力を削っていてくれたから倒せたんだよ言ってね俺達もランクBでそれほど強くないんだって言ってたけど私の目から見たら彼ら2人はランクAクラスだったよ。当人達はランクBだって言っていたけどね」


 サムのコップが空になったのを見てレミーがお代わりのお茶を注ぎながら


「それでその2人組ってラウンロイド所属の冒険者なの?」


「いや、この街ヴェルスの所属の冒険者だって言ってたよ。デイブとダンって言う赤魔道士と暗黒剣士の2人組だった」


 その言葉を聞いてサムにお茶を注いていたレミーの手が止まる。そのままサムを見て


「デイブとダン?本当?剣を2本持ってた?」


「ああ。両手に持った剣であっという間に4体の魔獣を倒してたよ。彼らを知ってるのかい?」


「知ってるもなにも、彼らはワッツが二刀流を教えて鍛えていた相手よ。ワッツ曰くあの2人は強くなるって言ったの。私も彼らを見てそう思ったわ」


 その言葉を聞いて今度はサムの手が止まる。


「あのワッツが人に教えてるのかい?」


「そう、あのワッツがね」


 笑いながら言うレミー。サムは商人になって長い。目の前のレミーと武器屋のワッツが冒険者の頃から知っていた。彼らのパーティをよく護衛として雇ってあちこちに行っていたのだ。


 ワッツを呼んでくるから彼にもその話を聞かせてあげて、そう言ってレミーはサムを店に残したまま店から出ていった。そうしてすぐにワッツと2人で戻ってきた。


「よう。久しぶり」


「久しぶりですな」


 挨拶をするとテーブルに座るなり


「ダンとデイブに助けてもらったんだって?」


 と聞いてきた。そうなんですよと言ってサムがもう一度街道で魔獣に襲われた時の話を2人にする。黙って聞いていたワッツはサムの話が終わると隣のレミーを見て


「ランクAの4体の魔獣をあっという間に討伐したか」


 まずは満足そうに言う。そして隣に座っているレミーに向けていた顔をサムに戻し、


「こいつには言ったけどあの2人は間違いなく強くなる。持っている素材、モノが違うんだ。俺にはわかる。その元から良いモノ持っている2人は普段からしっかりと鍛錬をして鍛えている。そこらにいる冒険者とは根本から考え方が違う。会ってすぐにわかったよ。久しぶりに楽しみな冒険者を見つけてな、鍛えてやろうかと言ったらお願いしますってんで半年ほどみっちりと二刀流を教え込んだんだ。最後は完璧にマスターしてたよ」


 ワッツが2人をベタ褒めだ。こんなことは今までないのでサムはびっくりしていた。冒険者の時から無口だが仕事はきっちりとしていてもちろん戦闘の腕もピカイチだったワッツ。サムの見立てではワッツは自分のスキルを上げる努力は厭わないが他人に教えるなんて想像もつかなかった。2人を前にしてそう言うとレミーが笑って、


「私も最初びっくりしたもの。でも彼が教えているところを何度か見たけど彼の言う通りね。2人とも他の冒険者とは違ってる。あの2人はまだまだ伸びるわよ」


 とレミーも褒めちぎっている。お茶を飲んでいたワッツがカップをテーブルに置くとサムを見て、


「あの2人組、まず赤魔道士のデイブは素材そのものがかなり上のレベルだ。魔法も剣も今の時点で普通にランクAのレベルにあるだろう」


 そこで一旦言葉を切ると、


「そして暗黒剣士のダンだ。デイブもちょっとここらじゃ見かけない程高いレベルにあるがダンはその更ににずっと上のレベルだ。奴は今でもランクAの上位クラスの力はある」


「ワッツさんよりも上だと?」


「今はまだ俺が上だろうよ。ただすぐに抜かれるだろう。そして抜かれたらもう俺なんかは絶対に追いつけない高みにまで登っていくだろう。デイブにしても抜かれたら追いつくのは厳しいかもしれない。2人ともそれほどのモノを持っている」


「そんな2人がどうしてランクBなんです?」


 疑問に思っていることを聞くサム。これにはレミーが答える。


「1つはギルドのポイントシステムのせいよ。ランクを上げるのにはギルドのポイントを貯めないといけない。早く、そして多くのポイントを得るにはダンジョンに深く潜るか護衛クエストをこなすのが一番ポイントが貯めやすいのよ。それで護衛クエストなんだけどさ、普通はサムの様な商人達って5名のパーティを雇うでしょ?誰も2人しかいないパーティを好き好んで雇わない。彼らは護衛クエストが受けられないのよ。だからポイントの貯まりが他の冒険者に比べてずっと遅いの」


 なるほどと頷くサム。


「そしてもう1つ。こっちの方が本当の理由なんだけど、あの2人は急いでないの。しっかりと足元を見て自分の実力を上げることを一番にしている。ダンジョンばかり潜らず地上のクエストをこなして金策をして装備や剣を揃える。そして地上やダンジョンで鍛錬して技を鍛える。ランクを上げたがる冒険者がほとんどの中あの2人は異質ね。でないと全くポイントが稼げない二刀流の鍛錬に半年ちょっとの時間を割くなんてする?」


「確かに言われてみればそうですな。大抵の冒険者はランクの話ばかりしてますよ」


 自分の知っている冒険者を思い出してサムが言う。


「そう。それが普通の冒険者だ。だが奴らは違う。ランクで強くなるのではなく自らを鍛えてこそ本当に強くなるんだと分かってる。奴らはランクにはこだわりがない。だから強いんだ」


 なるほどとサムは納得した。それと同時にこのワッツとレミーがそこまで高い評価を与えているあの2人に興味が湧いてきた。


「機会があればその2人を護衛に雇ってみましょうかね」


「いいんじゃないか?あの2人の腕前は俺が保証するよ」


 元ランクA、そしてランクSに最も近いと言われていたワッツのパーティについてはサムもよく知っていた。そのランクSに最も近いと言われていたパーティのメンバーだったワッツがあの2人の実力に太鼓判を押している。


 あの2人にはこれからも注意を払わないととサムはワッツとレミーの言葉をしっかりと頭の中にインプットした。

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