ラウンロイド

第16話

 それから2人は3日森に入り1日休むというローテーションを2回して森でランクAを相手にする鍛錬を続けた。そうして最後の日の夕方近くになってAランクの魔獣から魔石を取り出しながらデイブが、


「お互いに二刀流を完全にモノにした様だな」


「うん。もう大丈夫だろう」


 ヴェルスのギルドで換金を終えた2人は次の日は休養日にして最終の荷物の確認を終えると2人でワッツの武器屋に顔を出した。奥から出てきたワッツに明日からラウンロイドまで行ってくるという話をする。


「いいだろう。お前らなら危ない事にはならないだろう」


 そう言って剣を研いでやるというので2人が剣を渡すと奥で綺麗に研いでくれ、


「剣を見るとだいたいわかる。しっかりと鍛錬をしている様だな。また戻ったら顔を出すといい」


 そう言ってワッツの店を出た2人はレミーの防具屋に顔を出して同じ様に予定を言うと、


「ワッツが言うのなら問題ないでしょう。でも油断は禁物よ。街の外には安全な場所なんて無いと思った方がいい。気をつけてね」



 そうして翌朝、2人はヴェルスの街を出ると北に伸びている街道を歩き出した。ラウンロイドへの30日の旅が始まった。


 大陸にある都市と都市との間は整備された街道で結ばれている。とは言うもののひとたび郊外にでればそこは魔獣の生息域となっていて場所によると街道にまで魔獣が出てくることもある。


 商人は馬車に荷物を乗せて街から街を移動しているが魔獣に遭遇したときのために街で冒険者を雇って護衛してもらいながら街と街とを行き来している。そして冒険者にとっても商人や旅人の護衛クエストは報酬が良く、ギルドポイントも高いということで人気のクエストになっていた。


 ただダンとデイブは2人組ということでおそらく商人が受けてくれないだろうと最初から護衛クエストは諦めていて2人で左右を見ながら街道を北上していた。


「ヴェルスもそうだが中核都市の周辺には小さな街や村がある。だからしばらくは街道沿いには魔獣は出てこないだろう」


「となると3日目とか4日目くらいからが本当の旅の始まりってことだな」


 そんな話をしながら1日歩くと村に入って宿を取りしっかりと休んで翌日歩きだすと言うことを繰り返した4日目の朝、小さな村を出ると、


「今の村がヴェルスの端の村だ。今日からは野営だな」


「いよいよだな」


 ここからラウンロイドの周辺まで約20日の間は人が住んでいる所は無い。魔法袋には最低限の携帯食は入っているが途中で水なども探していかなければならない。


 2人は街道を歩きながらも常に左右に気を配っていた。


 村を出てしばらくは草原で魔獣の影も見えないが林が街道に近づくとランクCクラスの魔獣が徘徊しており2人を見つけては襲いかかってくる。


 2人とも精霊魔法で倒しては街道を進んでいった。そして夕刻に街道沿いの草原にテントを貼って野営の準備をする。食事を済ませると交代で見張りをしながらテントの中で眠り、翌朝再び街道を歩いていく。


 そうして1週間ほど歩いた頃、街道を歩いている2人の前方で魔獣と戦闘をしている護衛の冒険者達の姿が目に入ってきた。


 3体の魔獣に5人で対応している。危なさそうじゃ状況ではないので歩きながら近づいていく2人。近づくと魔獣がランクBクラスであることがわかる。馬車にも荷物にも怪我や傷はない様だ。


 そうしていると3体の魔獣を討伐した冒険者達。近づいてくるダンとデイブを見ると軽く手を上げてくる。高ランクなのか誰も息が上がってない。ダンとデイブも手を挙げて応えると、


「お疲れ。ヴェルスからここまではほとんど魔獣に合わなかったよ」


「そうか。それは良い情報だな。こっちはここ数日は1日に1回は魔獣が襲ってきた。ラウンロイドに行くのならここから1週間ほどは注意したほうがいいぞ」


 デイブが言うと向こうのリーダー格の男が答えてくるそうして


「2人組か?」


「そう。2人でラウンロイドに向かってる」


「気をつけてな」


「ありがとう。そっちもな」



「ああやって情報交換をするんだな」


 彼らと離れて街道を歩きだすとダンが言う。


「そうらしい。もっともちゃんと答えてくれるという保証はないけどな。中には事実と違うことを言う奴もいるらしい」


「最低だな」


 そんな話をしながらもさっきのリーダーが言っていたこの辺りから注意しろという言葉を覚えている2人は周囲を警戒しながら街道を進む。


「来たぞ」


 デイブが言う前にダンもその気配に気付いていた。歩いている前方から2体のランクBのオークが街道に出てくると2人に襲いかかってきた。それぞれが1体を受け持って剣を振るとあっと言う間に倒れる魔獣。さっくりと倒して魔石を取り出して


「この調子で行こうぜ」


 そうして周囲に森がない草原で野営をしながら歩いていった数日後、街道を歩いている2人の前に再び護衛の商人を襲っている魔獣と防衛している冒険者達の姿が目に入ってきた。


「あれはやばそうだ」


 デイブの声を聞くまでもなく駆け出していたダン。すぐに後ろからデイブも走ってくる。近づくと馬車の周りに4体の魔獣が。しかもランクAの魔獣だ。それに対して冒険者達が馬車の周囲で対応しているが形勢が悪い。僧侶は回復魔法を使いすぎたのかぐったりとしている。


「助けはいるか?」


 デイブが走りながら叫ぶ


「頼む!」


 その声を聞いた2人は馬車に近づくと左右に分かれて冒険者を襲っているランクAの魔獣にまずは精霊魔法を撃ちそして近づいていくと2本の剣を左右に振る。すぐに1体がその場に倒れるともう1体に向かっていくダン。



 リチャードは襲いかかってくる複数体のランクAの魔獣を盾で交わしながら剣を突き立てていた。ラウンロイドの街で受けた護衛クエスト。ヴェルスの街まで馬車を護衛するこのクエストは過去から何度も受けていて今までは問題なくクリアしてきたこのパーティ。今回も問題ないだろうと受けラウンロイドの街を出てしばらくは問題がなかったが、まさか街道の途中で遭遇した敵がランクAでしかも4体もいるとは想定外だった。


 パーティメンバーは自分を含めて全員がランクB。それぞれが魔獣を相手にしているはずだが周囲を見る余裕がない。ローラの回復魔法はさっきまで飛んできていたがそれが無いということはおそらく魔力切れになったんだろう。このままじゃあジリ貧でやられる。そう思った時に「助けはいるか?」と声が飛んできた。「頼む」と応えるのが精一杯で言ってきたのがどう言う奴かも確かめることができない。


 そうしていると突然隣で魔獣の相手をしていたロンの魔獣が地面に倒れる。そしてすぐに自分が対峙していた魔獣も剣で切り裂かれるとその場に倒れ込んで絶命した。


 助かったと思ってようやく周りを見る余裕ができたリチャード。彼の目の前には黒いローブを着ている男と赤いローブを着ている男の二人組が立っていた。


「無事でよかったな。荷物も馬車も商人も全員無事だぜ。僧侶と精霊士は魔力切れだな」


 赤いローブを着た男がリチャードを見て話かけてくる。隣の黒いローブの男は黙って馬車の周囲を警戒している。


(こいつら2人でランクAの魔獣4体をあっという間に倒したのか)


「助かったよ。俺はリチャード。このパーティのリーダーだ。全員ランクBで護衛クエストでヴェルスに向かう途中だ」

 

 そう言うと赤いローブの男が


「俺はデイブ、それでこっちがダン。2人組だ。ランクは同じくB。こっちはラウンロイドに向かう途中さ」


「ランクBだと?」


 思わず声を出したのはリチャードではなくその横で馬車にもたれて休んでいた戦士のロンだ。


「ああ。2人ともランクBだよ」


 あっさりと言うデイブ。


 馬車に乗っていた商人が少し休みましょうと街道沿にある草原に馬車を入れる。成り行きでデイブとダンも彼らについてきた。


 僧侶と精霊士は草原の上に座り込んでいるがさっきよりは少しは顔色が良くなっていた。ただ疲れ切っていたのか声を出す元気もなさそうだ。


 リチャードが紹介してくれたが彼らは5人組のパーティでナイト(盾)のリチャード、戦士がロンとケビン、僧侶がローズ、そして精霊士がリリィらしい。後衛2人は女性だ。


「さっきも言ったが俺はデイブ。赤魔道士、そしてこっちがダン。暗黒剣士ランクは2人ともBだ」


 彼らのジョブを聞いて納得するメンバー。


「なるほど。それで2人組みなんだな」


「そう言うことだ。中衛ジョブ同士で組んでいる。普通のパーティに俺達の席はないからな」


 デイブがそう言うと黙っていたダンも


「護衛クエストも2人組なら受けてくれる人もいないしな。だから2人で街道を歩いていたのさ」


 デイブがそう言うと黙ってやりとりを聞いていた商人が


「それにしてもお強いですな」


 その言葉にデイブがすぐに否定する。顔を商人に向けると、


「いやそれは違う。彼らがある程度魔獣の体力を削っていてくれたので倒せたんだ。俺達もランクBですからそれほど強い訳じゃない」


 ダンも隣でその通り、あの魔獣はもうほとんど死んでいたと言う。

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