第21話
バートには、食後の紅茶を楽しむ時間は与えられなかった。
バートがホットケーキの最後のひとかけを口に放り込み、水で流し込んだのを確認するや否や。
ザックは立ち上がり、にんまり笑ってこう言い放った。
「うん、食べたね。じゃあ行こう」
返事をする間も与えられなかった。
椅子から立ったザックは、いつにも増して大股気味に歩き始めた。
バートも急いで立ち上がった。
「待て、ザック」
バートはザックを引き止めようとした。
が、しかし
実際には声が出なかった。
無理矢理飲み込んだホットケーキが水を吸い、バートの喉で膨張していた。
バートは、ずんずんと突き進むザックに「待て」というひと言を掛けることもできず、咽頭から食道を無理矢理押し拡げながら下るホットケーキと格闘しながら黙って後に続くしかなかった。
「ヒロの魔石と同じ気配を探してみたんだ」
バートの胸のつかえが漸く落ち着いた頃、ザックが話し始めた。
「魔石はさ、中に込められた魔術が発動すると、それぞれ特徴のある波動を出すのさ」
「だから、ヒロの魔石に似た気配を村の中で見つけることができれば、リックの居場所が掴めるんじゃないかって考えたのさ」
「ちょっと大変だったけど、探してみたら微かに気配を感じた。こっちだ」
ザックは左耳に手を添えて、耳をそば立てるような仕草を繰り返していた。
(聴覚を使うタイプか)
バートはザックの後を黙ってついて歩いた。
生粋の剣士であるバートは、魔術に関して教養程度の知識しか持ち合わせていなかったが、それでもわかったことがある。
ザックが聴覚タイプの魔術師であるということ、そして王宮魔術師という肩書きは伊達ではないということだ。
魔術師は、魔術の発動に際して発せられる魔力を感じ取ることができる。
その感知のやり方は様々であり、ザックは魔力を音として認識するようだ。
魔力の感知能力は、魔術師としての能力の高さに比例すると聞く。
アミュレットのような魔道具の発する魔力は、通常それほど大きくないため、目に見える範囲にない魔道具の魔力を探知できるということは、ザックの魔術師としての能力はかなり高いと言える。
やや早足で歩くザックを追いながら、バートは改めて実感した。
アイザック・ウェストファルという男はやはり、ただの奇人ではなかった。
相変わらず、考えていることはさっぱり分からないが。
迷いなく歩を進めるザックの背中を追いながら、バートは、もはや成り行きに任せるしかないと覚悟を決めた。
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