第11話
「ねえ、そのペンダント。綺麗だね。なにかのお守り?」
朝食メニューを一通り制覇したザックは、焼きリンゴをフォークで押し潰しながらヒロに尋ねた。
バートは隣で黙々と朝食をとっていた。
「これ?綺麗でしょう?アミュレットよ。リックが・・わたしの大切な人がくれたの」
カウンターで紅茶の準備をしていたヒロは少し恥ずかしそうに、だがとても嬉しそうに言った。
ヒロは、よく磨かれた深い赤色の石を首から下げていた。
よく見ると、石の中で炎が揺らめいているように見え、魔術が込められた魔石であることがわかる。
くるみより一回り小さいティアドロップ型の魔石が、銀製の古風なデザインのペンダントトップに収まっている。
デザイン的には銀製のチェーンに通す方が良さそうに思えたが、ヒロは魔石を細い革紐に通して身につけていた。
ペンダントにしては少し紐が長いな、とバートは思った。
魔石はちょうど心臓の高さと同じくらいの位置に下がっていた。
「願いごとが一つだけ叶うお守りなの。今年の春にリックと一緒にお揃いで買ったの」
「離れていても、お揃いで身につけられるものがあれば、いつでも繋がっている気持ちになれるでしょう」
ヒロは少し恥ずかしそうにふふっと笑って言った。
ザックはへえ〜、とわざとらしい相槌を打って言った。
「ひとつだけ願いが叶うんだね。本当になんでも願いが叶うの?どこで買ったの?」
「春の星祭りに来ていた露店よ。魔石で作ったアクセサリーとか、普通の銀細工のアクセサリーを売っていたかな」
ヒロは慣れた手つきで紅茶をカップに注ぎながら答えた。
ザックはリンゴを食べるでもなく、フォークで押し潰しながら黙ってヒロの胸元で輝く魔石を見つめていた。
「それ、もう売ってないかな。本当に願いが叶うのなら、僕も欲しいな」
「どうかしら。同じお店が来ていたら売っているかもしれないけど」
ヒロはふふっと笑って答えた。
「わたしが買ったときは、大広場の北側の出口にお店を出していたはずよ。この後、行ってみたらどう?」
「大広場ね。行ってみようかな」
ザックは細切れになったリンゴをフォークで突き刺して、口に運んだ。
「どうせ今日も夜までやる事ないしね」
バートがぴくりと眉を顰めた。ザックは気づかないふりをした。
「バート。食べ終わったら、大広場に行こう」
「俺も行くのか?」
バートはパンをちぎりながら低い声で唸った。
「だって、バートも夜まですることないだろう?」
新たなリンゴをフォークに突き刺して、ザックは言った。
バートは無言でパンを口に運んだ。
「今日も僕らは、夜までやることないんだからさ」
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