第12話
大広場の露店は朝からすでに賑わっていた。
朝食になりそうなパンや綺麗にカットされた果物が売られている。
ハーブティーやフレッシュジュースを売る店も盛況のようだ。
「星祭りの間は、ずっとお祭りなんだねえ」
ザックは賑やかな祭りの雰囲気に顔を綻ばせて呟いた。
さすがに今朝は爆買いをするつもりはないようで、露店の売り物を眺めながらライムソーダを片手に広場のメイン通りを軽い足取りで歩いていた。
「さて。僕のお目当てはあるかな」
北側出口が近づくにつれ、ザックの歩調がゆっくりになってきた。
露店の品物を吟味しながら歩いているのがわかる。
バートはザックの歩く速度に合わせてゆっくりと歩いた。
バートが見た限り、高度な魔石を扱っているような露店は見つからなかった。
「うーん。ないね」
少し前を歩くザックが残念そうな声を出した。
「あれだけの魔石を扱う露店なら、すぐにわかるはずなのに」
ザックは魔術師である。
魔術の込められた魔石は魔術師であれば気配で気づく。
王宮魔術師であれば尚更、小さな魔力の波動も逃さず感知するだろう。
そのザックが見つけられないのなら、今回の祭りには来ていないのかもしれない。
あるいは場所を変えたか。
「他の出口も見てみよう」
ザックも同じように考えたようで、広場の北側出口に到着すると素早く踵を返した。
「西と東、南出口全部見てみよう」
「そんなにあの魔石が欲しいのか?」
バートはザックに尋ねた。珍しい魔石であることは確かだった。
バートでもわかるほどの魔力の気配を感じたし、何より一般向けのアミュレットにしては大きな石だった。
通常あれほど大きな魔石を持つのは魔術師か神官くらいである。
魔石の大きさは、内部に秘められた魔術の規模と発動に使われる魔力の量に応じて決まる。
大きければ大きいほど、秘められた魔術と魔力が大きいことを示していた。
魔術師でもないヒロが持つには、明らかに分不相応な大きさの魔石だった。
「うん。あれほどの魔石を作れるなんて、かなりの腕前だよ。中に込められた魔術の正体も知りたい」
ザックは目をキラキラさせてバートを見た。
魔術師として、余程興味をそそられたのだろう。
人混みをかき分けて歩く速度も気持ち上がっていた。
「それに、本当にどんな願いでも叶うのなら僕も欲しい。バートだって、欲しいだろう?」
ニンマリと笑って応えるザックを見て、バートはザックの願いとはいったいどのようなものだろうかと考えた。
どうせ、ろくなものではないだろうが。
少しずつ歩調が速まっていくザックのあとを、バートは黙って追いかけた。
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