第3話
「やっぱ田舎だよね」
ザックの第一声はそれだった。
半月ほど滞在した宿屋の一階。
ザックとバートは、いつものテーブルに向かい合わせで座っていた。
次の目的地を尋ねると、ザックはうーん、と唸った後、バートを見て言った。
「そろそろ涼しくなってきたし、星空保護区がある田舎に行こうよ。僕、まだ流れ星って見たことないんだよね」
バートは小さくため息をついた。
「明確な目的もなく、ただ星が見たいから田舎に行きたいと?」
「え。たまには良いじゃん。星空。綺麗だしさ。僕、都会育ちだし、満点の星空ってやつを見てみたい」
バートの怒りと呆れが半々の声音に動じる気配もなく、ザックはへらへらと笑って続けた。
「さっきのお店でさ、ここからそんな遠くないって聞いたんだよね。」
「何が?」
「星空保護区。もうね、夜空に星の川が流れてるんだって。見てみたいだろう、星の川」
「別に」
「なんだよバート。君って本当に面白みのない男だな。人生は短いんだ。この世にいるうちに、経験できることは何でも経験してみるべきだよ」
「・・・」
バートは言葉を返すことを諦めた。
ザックは一度言い出したら絶対に折れない。
言いたいことは色々あったが、言い返した後の更なる反撃を想像すると頭に浮かんだ言葉は瞬時に霧散した。
「・・その星空保護区とやらは、どこにあるんだ?」
バートはできるだけ平静を装って、かろうじて残っていた言葉を口に出した。
ザックは勝ち誇ったような顔で、「にまあ」っと笑って言った。
「ベイの村だよ。ここから半日も歩けば着くらしい。馬車なら3時間だ」
バートは鼻から短くため息を吐くと、カップに残った紅茶を一口で飲み干すと、テーブルから立ち上がった。
「行こう。人生は短いんだろう」
「そうそう。人生は短いんだ」
ザックも嬉しそうに立ち上がった。
「ついでに言うなら、ベイの村は、爆発期に栄えた蝶の祖先の化石がよく見つかるんだよね」
ザックの「ついで」を、バートは聞こえないふりをした。
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