第7話 突然の襲撃

「アァァ―――!!」


 虚ろな目で、ガタガタと震えている男は懐から黒く鈍い光りを放つ銃を取り出した。

 銃口が灯夜に向けられる。


 瞬間、パン!! と弾くような銃声音。


「灯夜様!!」

「灯夜!!」


 葵と、幾人かの声が重なった。

 続けざまに、パン!パン! と銃声が響く。


 会場は再びごった返し、叫び声がこだまのように響いた。

 灯夜は、コックコートの乱入男に背中を支えられるように膝を折る。


 傾く視界に、銃を撃った男がダラリと倒れ込み、黒田と数人の男に取り押さえられるのを確認できた。

 すぐ横にいる葵の手に、銃がある。


 葵が撃ったのかぁ。

 殺してないだろうなぁ。

 大事な証人だぞ…。


 そう言おうとしたのに、うまく言葉が出てこない。吐く息がひどく苦しく、葵が何かを叫んでいるようだが、サイレント映画を見ているようで耳に届かない。


 酷くまぶたが重たい。


 このまま寝ちゃダメかな…と、思うのだが、頭の隅で警報がなる。

 今ここで、意識を手放せば問題事が増えるだけだと…。


 吸う息も、吐く息も苦しい。

 そうか……。撃たれたんだな……。


 現状を理解すると急激に痛みが押し寄せてきた。激痛に顔を歪める。


「く―――っ!」


 痛みと苦しさで灯夜の顎が自然と上がった。


「動くな!!」


 途端に男が叫ぶ。


「だい、じょ、う、ぶ」


 耳も聞こえるし、声も出せる…。

 だから大丈夫だと言いたいのに、乱入男も、膝をついて灯夜の胸元を押さえている葵もすごい形相だ。


 頭が覚醒すれば、痛感も復活する。


 はぁ、はぁ…と、息苦しさに喘ぐよう呼吸をし、身体の激痛をなんとか逃そうと試みた。しかし背中を熱せられているような沸点から逃れられない。


 撃たれた傷じゃない……。

 この激痛は!


「は―――っ! あ…お、いっ!」


 灯夜は耐えきれずに、葵の名を絞り出していた。ギリっと奥歯を噛み締め、身体を支えるコックコートの男の袖口を懇願するように強く握る。 


 その顔に、会場にいる男も女もそそられていた。


 灯夜の額に浮かんだ汗に、彼の髪が張り付く。美しい顔を耐えかねたように歪め、まるで情事の熱を誘うように「早く…っ」と、開いた唇から漏れる。その甘い吐息が見えるかと思う程の色香だった。


 どこからか、ゴクリと唾を飲み込む音までもが聞こえる。


 葵はコックコートの男の腕から灯夜を奪うと、早口で津神守に耳打ちした。話が纏まるとお互いに頷く。


 津神守は、よく響く声でスタッフに指示を出し、鷹揚に人を動かし始めた。指示し慣れた彼の言葉に、否応なしに人が動く。


 葵は男達を尻目に、軽々と灯夜を抱き抱えた。男一人抱えているとは思えない足取りで、ガラスが散乱する会場から灯夜を連れ出す。


 二人が去った方向を、羨望の眼差しで見つめていたパーティーの参加者がどれだけいたのかは、後に桜から聞かされる事になる。







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