十月三十七日:議論
十月三十七日が来た。
ロビーには四人の生徒がいた。
「今日殺されたのは『文芸部』だ」
『風紀委員』が腕を組んで言う。
「唯一本物の占い師に人間と言われたんだ。狙われるだろうな」
『先輩』が力なく首を振った。ロビーには十二人分の椅子が並んでいる。
「少なくなっちゃったな」
『編入生』が呟いた。
「俺はみんな揃ってハロウィンをやりたかっただけなのに……」
「……今日でおそらく決着だ。人狼を処刑して終わりにしよう」
『先輩』の声に全員が椅子を引いた。
【第六回目 議論開始】
「俺が人狼だと思うのは『先輩』だ」
最初に『風紀委員』が口を開いた。
「あれ、昨日俺を疑ってなかったっけ?」
『編入生』の問いに、「それは妖狐探しのときの話だ!」と『風紀委員』が怒鳴る。
「『生物部』が噛まれる前日に占うって言ってたのは『先輩』だ。本物の占い師から人狼だと言われる前に殺したんじゃないか」
「『生物部』は遅れて出た上に『図書委員』と占い先が被って信用がなかった。そんなのを恐れて殺すと思うか? 占い師のひとりが噛まれれば、その分仲間の『映研部』の信用が落ちるのに?」
『先輩』は淡々と返した後、わずかに俯いた。
「ただ、お前が人狼かと言われたら違うと思う。『保健委員』もそうは見えない。俺が疑ってるのは、お前だ」
指された編入生は息を呑んだ。
「俺……?」
沈痛な表情で『先輩』が首を振る。
「俺だって信じたかったよ」
「でも、お前は議論に参加しつつ人間に有利になる情報は落とさない。いずれ処刑される『映研部』と対照的に、目立たないよう生き残るには最適な位置なんだ」
「昨日は偽占い師の件がなかったら『編入生』はいつ処刑されてもおかしくなかったと言っていなかったか?」
『風紀委員』の反論に『保健委員』が口を挟む。
「あの、まだ妖狐が生きているって可能性はないんですよね?人狼だけを探せばいいんですよね?」
「たぶんもういない。昨日の最後でそう思った。『編入生』を疑う理由も今から話す」
『先輩』が続けた。
「お前は今まで直接誰かを疑わなかったのに、昨日は『元バスケ部』を処刑するよう誘導をかけていた。妖狐を噛んで誰だか把握してた人狼のやり方だと思った」
「頑張って妖狐らしい奴を探したんだよ!そうじゃなきゃ人間が負けるから……でも……」
『編入生』はかぶりを振った。
「『先輩』は人狼じゃないと思う」
「なぜ疑い返さない?」
「だって、人狼なら今日自分以外の誰が死んでも勝ちなんだ。わざわざ俺を狙わず、別の奴を指名すればいい。そうしたら、たぶん俺は信じたと思うから……だから、そうしない『先輩』は人狼じゃない」
「昨日お前が一番疑われてたから処刑できると思っただけじゃないか」
遮るように言った『風紀委員』を『編入生』が見返した。
「妖狐として疑われてた奴を今日人狼って言うのは厳しいだろ。俺が疑ってるのは『風紀委員』だ」
「『風紀委員』くんは人狼の『映研部』さんが処刑しようとしたから、仲間ではないんじゃ……?」
『保健委員』が問う。
「あの日は人狼が二匹いて、ほっとけば妖狐が勝つとこだった。だから、仲間の『風紀委員』をあえて処刑させて、自分は本物の占い師として残ろうとしたんじゃないかと思う」
「霊能者が死んで『風紀委員』が人狼だと証明されないのに身内を売るとは思わないな」
『先輩』が首を振る。
『風紀委員』が眉をひそめた。
「あの日の話なら『映研部』を本物と言い張って残そうとした『先輩』の方が怪しいだろ。人間は妖狐を処刑しなきゃ負ける一方だけど、人狼なら妖狐を噛んで死体がない日を作れば一日分猶予ができる。妖狐を探しながら仲間を残したかったんだ」
「片方の人狼が処刑されるのに、わざわざ仲間と繋がりを見せないと思うけどな」
『編入生』の声に『先輩』が俯く。
「頼むから俺を庇わないでくれ。疑いづらくなる。『生物部』が妖狐だったという説に賛同して結果的に『映研部』を本物に見せようとしたのは『編入生』だ。本当にルールを知らないなら、妖狐は占われて死ぬってことを理解して考察するか?」
「あの日は本物の占い師だと思ったけど、今なら『映研部』は自分が名乗り出ることを前提で、『風紀委員』を人狼と言ったんだと思う。偽物がそう言ったなら逆に人間だと思わせるために」
『風紀委員』が『保健委員』を見た。
「お前はどうだ? 何も言わないと自分以外が死ねば勝てる人狼だと思われるぞ」
「『先輩』はよく喋るから疑われやすいだけだと思うし、『編入生』くんは僕と考えが似てるし、『風紀委員』くんは……疑いたくないよ、だって、友だちだから……」
「俺だって、信じてほしかったよ……」
『編入生』の視線から目を逸らして『先輩』は言った。
「時間だ」
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