十月三十七日:投票

 投票終了の時刻を知らせる鐘が鳴った。


「俺は『編入生』に投票した」

『先輩』が 呟く。


「俺は『風紀委員』に……」

『編入生』がそう言って視線をやる。


『風紀委員』が唾を呑んで答えた。

「俺は『先輩』に、だ」


「三人に一票ずつ……」

 ペンを握りしめたまま、『保健委員』が立ち尽くしていた。

「すみません、僕は……『先輩』に入れました……」



【投票結果の結果、本日の処刑は『先輩』に決定しました】


『風紀委員』と『保健委員』が血の気の引いた顔で彼を見た。

「終わりだ……」

『先輩』は苦痛を堪えて祈るように目を閉じ、椅子に座り込んだ。



【ゲーム終了】


「勝ったってことでいいのか……?」

『風紀委員』が目を泳がせる。



【現時点で人間陣営の勝利条件を満たしました】


「や、やった! 助かったんですよね、僕たち?」

『保健委員』が上ずった声を出す。

「待て。でも、まだ『先輩』が生きてる……」

『先輩』は座ったまま微動だにしなかったが、開いた目の瞳孔が震えていた。

「本当に『先輩』が人狼だったんだよな?」


『風紀委員』の声に『保健委員』がはっとして制服のポケットから何かを取り出す。

「ゲームが終わったからもう見せていいんですよね? ほら、これ! “人間”です」

 悪夢の六日間が始まる前日、学園長から一枚ずつ手渡されたカードだった。


「俺も“人間”だ。ほら、……お前も持ってるだろ」

『風紀委員』は遠巻きに彼らを眺めて一言も発さない『編入生』に、細かい細工が施された金属製の薄いカードを掲げた。

「知らない」

「知らないって……初日に引いたの、失くしたのか?」


「お前ら……」

 顔を上げた『先輩』の声は、乾いた絶望に満ちていた。

「終わったのは、俺たち全員だぞ」



『編入生』が口元にかすかな笑みを浮かべた。

「俺はカードを引いてない」



【よって、ゲーム終了まで生存していた妖狐の勝利です】

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