第39話 冗談からの......
降っている雪が心なしかフロントガラスにも積もってきた様に感じる今、尚もまだ俺たち二人は薄暗い駐車場の車の中にいる。
「ごめん.......。美桜。俺、やっぱ.......できない」
「そ、そっか、そうだよね」
「じゃあ、そろそろ時間だし。もう入ろうか」
「うん.......。やっぱ冗談。冗談だから大丈夫だよ.......」
そして俺たちは雪の中、静かに車を降りて予約をしていた寿司屋の暖簾の前へ。
「全部、冗談だから.....」
美桜........。
彼女は本当に良い女性だと思う。出逢った頃は本当に色々と仲も悪かったけれど。今はもう親友と言っていいぐらいに親しい存在だと俺は思っている。
うまく言葉にはできないけれど、一緒にいてものすごく安心感があるし、何と言っても架純と別れた後に俺が今こうやって元気でいられるのも美桜が何度も励ましてくれた部分が大きいと感じている。だから、本当に彼女には感謝している。
そして.......、いや、もう自分でも何が何だかわからないぐらいに今は頭の中がぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。
今も、過去の美桜との思い出、そして最近の美桜との思い出がひっきりなしに俺の頭の中では再生されている......。
美桜.......。
俺は本当は気づこうと思えば気づけていたのかもしれない。ただ、架純と別れたことによって、そんなことはありえるわけがないと無意識に色々と蓋をしてしまっていたのかもしれない。そんなこと、ありえるわけがないと......。もう何も傷つきたくないと。色々と逃げて......いたのかもしれない。
でも、冗談.......か。
良かった、さっきはギリギリで踏みとどまれて良かったと思う。
本当に......。
そしてそれは、今も隣にいる美桜の表情を見ていて確信が持てた.....からだと思う。
俺の知っている美桜は決してこんな表情はしないから。
間は空いたが、何だかんだで俺も彼女とは長い付き合いだから.......わかる。
とにかく、俺は余計な事を色々と考えてしまうところが本当に悪いところだと思う。素直に本能に従えばいいのに、本当に色々と.......。
でも、さっきの決断は間違っているとは思わない。
やっぱり冗談であんなことをするのはよくないから。冗談では。
そして今、自分の頭の中で考えていることが正しいかも全くわからないけれど、今度ばかりは俺も自分の本能に従ってみようかと思っている......。
俺は、美桜のおかげで改めてそのことに気が付けた。だから本当に美桜には感謝しかない。ありがとう、美桜......。
実はさっき俺は、二人で車から降りる前に少し時間をもらって一人で車の外、電話をさせてもらった。別の女性と......。
そしてもう決心した。余計なことは何も考えない。
「いらっしゃいませ」
とりあえず、店の暖簾をくぐると同時に目の間には若い女性の店員の姿。この店の娘か何かだろうか。
やはりちゃんとした店なだけあって気品や佇まいはプロのそれを感じさせるが、まだその顔立ちは幼い。
いや、そんなことはどうでもいいか。
「予約していた森高です」
「かしこまりました。森高様。少々お待ちください。えーっと、クリスマス夫婦割でご予約いただいているようなので念の為に夫婦の証明ができる両名の免許証確認だけすみませんがお願いします」
やっぱりそういうことになるか。まぁ、適用するのとしないのではかなり金額が変わるから仕方がないことか。
「すみません。私は忘れました.......。免許証」
まぁ、想定の範囲内だ。そんなことを考えながら美桜の隣で俺はとりあえず自分の免許証だけ提示する。いや、むしろ想定どおりになってくれて良かったと.....思う
「えーっと、免許証がない。申し訳ございませんがもう少々お待ちください。上に確認してまいります」
「いや、もしあれでしたら......」
そういって、とりあえず俺は奥にいこうとする彼女を止める。
「はい?」
「これでは証明になりませんか?」
「え? し、修平?」
俺はもう何も考えずに自分の気持ちに正直なろうと思う。
いや、ならなければならない。もうさっきの彼女の気持ちを冗談だと思ってしまう俺は少なくともいない。
今日、こういう状況になったことも全てもう運命なのかもしれない。
だから、早いとか、遅いとか、順番とか、もう何も考えない。だから俺はもう俺は本能に従う。
もう、二度と後悔をしない為に。
「美桜、これは間違いなく冗談ではないから.......」
そう言って、俺は隣にいる女性、米倉美桜の綺麗な顔にそっと自らの顔を近づけた......。
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これよりルート1に入ります。
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結婚が破談になりましたので、いただいたご祝儀を返しまくります 高たんぱくプロテイン君 @jetton
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