第38話 美桜
「い、いや美桜。一旦落ち着け。どうした」
「私はずっと落ちついてるよ。落ちついていないのは修平の方じゃないの......?」
「い、いや、え?」
「で、どうなの? 修平。私とキスは嫌?」
いや、え? 雪が降る駐車場の薄暗い車の中で二人。目の前には美女......と言うか友達の女性の顔が至近距離に......。
こ、これは一体どういう状況だ......? キス......? しかも、美桜......と?
何で本当にこんなことになっている。俺たちはさっきまで一体何の話をしていた........?
確か、一緒にお寿司を食べに来たんだったよ.....な
え? って、しかも電話? だ、誰からだ。
そして俺のスマホの画面には着信音と共に戸田の2文字が浮かび上がる。
と、戸田か。
「ちょ、すまん。美桜。戸田から電話......って」
「駄目。出ないで。お願い.....」
「え、あ........」
「うん。ありがと......修平。嬉しい」
な、何で今、俺は無意識に戸田からの電話を切って.......?
現に気が付けばもう俺のスマホの着信音は鳴りやんでいる。間違いなく俺の手によって.......。
「で、どうなの?」
そして尚も俺の目の前には、甘い声でそれも俺から視線を一切外さすにじっと瞳を見つめてくる美桜の姿。
その彼女の綺麗で大きな瞳が少し潤んだ様に見えるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではない気が......する。
「修平?」
本当に何だこの状況。そして何で俺は。
み、美桜は友達だろ? それも、ものすごく大切な。
なのに、なのに何で俺の心臓の心拍数はこんなに.......本当に何で。
しかも気が付けば、さらに美桜は俺にその綺麗な顔を近づけて......
「い、いや美桜。冗談でこんなことは駄目だ。本当に。何かあったのか。こ、こんなのお前らしくない。何かあったのなら俺が全部聞いてやるからとりあえず本当に落ち着いてくれない.....か?」
本当に。
「私らしくない? そうだね。そのとおり。修平がちゃんとわかってるくれているんじゃない。うん......。私は冗談でこんなことは絶対にしないし、言わないよ」
そして何だ。今度は俺の右手をそっと掴んで自分の頬に添えるように........
「ねぇ、修平。だからキス.......して。お願い」
い、いや.......。
でも、気が付けば美桜はさっきまで1秒たりとも俺から離さなかったその大きな瞳を静かに閉じて.......。
そして何で俺は俺でそんな美桜の頬に添えられている自らの右手をさらに奥に......
それに、何で俺は駄目だとわかっているのに、美桜の顔に自らの顔を静かに近づけて......
何で......。
「美桜......」
「修平......」
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