第33話 綱渡り

 やっぱり彼女とはどこかで......


 「あの、さっきからずっと思っていたんですけれど。俺とどこかで会ったことがありますか?」

 「おい、修平。殺されたいのかテメェ! お前がミキちゃんと会ったことがあるわけないだろうが。誰が誰にそんな安っぽいナンパをしているんだバカ!」


 そうだよな。やはり気のせいだよな......。


 とりあえず、いかにも高級そうなテーブルにソファー。そして数人の女性が今、俺達の目の前にはいる。


 頭上にある、見るからにクラシカルで煌びやかなシャンデリアも、ブラックを基調にしたエレガンスな内装も、ずらーっと並べられた高そうなお酒のボトルの数々も到底俺の体には合わないものばかりだ。現にこのクラブという環境自体には未だに身体が慣れていない。


 なのに何故だろうか。これがプロの力なのか.......

 どんどんと勧められるがままに酒を飲んでしまう自分が不覚にもいる。

 おかしい。何だかんだで警戒していたはずなのにすっかり彼女には気が緩んで.......。

 隆志の奢りだからか? それとも彼女達の話術? いや、もしかすると無意識にお昼の架純との出来事を頭から忘れようと........


 よくわからないけれど、ぽかぽかと俺は完全に酔ってしまっている......。

 特にこの隆志のお気に入りのミキちゃんがこれでもかと俺に酒を飲ましてくる......。どちらかと言えば彼女を一番警戒していたはずなのに、何だろう。実際に接してみると何故か言葉にできない安心感がある。


 やばいな........。まんまとこの店の客になってしまっている。

 まぁ、隆志の金だから別に問題がないと言えばないのだが。


 「ミキちゃん。ごめんな。こいつ色々とあって今相当溜まってんだよ。だから俺がここに連れてきてやったってわけ。今日は俺の奢りだからもうパーッとやってくれってな」

 「へ、へぇ........」


 そして事実だろうからいいけれど、やはりさっきからこいつの俺が奢りますアピールがすごい。何回目だこれで。


 「てか、ミキちゃん。もう体調は大丈夫なのか? 心なしが声がいつもとちょっと違う気がするんだけども。口数もいつもよりも何か少ない?」

 「あ、すみません。ちょっとまだ喉が本調子じゃなくって........」


 何か久しぶりにここまで酔ってしまった気がする。酔い止めは一応飲んできたのだが、やはり戸田のくれたアレじゃないと駄目なのか。結局メーカーを教えてくれなかったからわからずじまい。


 本格的に頭がふわふわとしてきた気がする。気持ちいい。

 

 でも、やっぱりミキちゃんというこの女性。接点なんてあるはずないのに、どこかで見た様な気がしてならない。何でだ。酔ってるからそう思ってしまっているだけ?

 いやでも本当に誰かに........


 「でも、修平。今年は俺もお前もクリスマスは独りだな。何するんだ?」

 「あ? 何もしねぇよ。ぼーっとするだけだ」

 「ったく、お前はいつまでも。お前も次の相手を早く見つけた方がいいぞ。なんなら俺が紹介してやろうか?」


 お前に紹介できる女なんていないだろ。何をかっこつけているバカ......


 「そもそも近くにいねぇのか? 良い人は」

 「いねぇよ。そもそももう何が良くて悪いのかすらわからなくなってきているからな」


 本当に。


 「なぁ、ミキちゃん。こいつ最近はずっとこんな感じなんだよ。女性として教えてやってよ。例えばどういう女性が脈ありとかさ」


 いや、止めろや。別に必要ない。


 「え? 私ですか?」

 「うん。ミキちゃんほどの女性の言葉なら絶対参考にできるから」


 そして俺よりもお前がしてもらえや。


 「え、えーと。そうですね。例えば......」


 でも、本当にこのミキちゃん。初めて会った気がしないんだよな。

 何でだ........?


 一体どこで。  


 「例えば、どんな理由であれ女性が家に男性を入れる場合は脈はそれなりにあるかもですね.....」


 家か......


 「特に私の場合は、どんな理由があっても好意のある人しか自宅には入れません......。あと、手料理を食べさせるとなったらもう完全に好きになった相手にだけですね......」

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