第27話 大吹雪発生


 「ねぇ、修平。もしかして酔い止めの薬とか何か飲んでる.......?」

 「ん? おお、飲んでるぞ。さっきの戸田って同僚がくれて飲んできたんだけど。やばいぐらいに効果があって驚いているところだ」

 「へ、へぇ......。そう」


 ん? 今、一瞬だけものすごい表情にならなかったか? 美桜。


 いや、さすがに見間違えか。

 目を擦って再度隣の席に座る彼女の顔を確認するも、間違いなくそこにいるのはさっきまでと同じ、ワインを片手に酔った色っぽい表情にニット姿の美桜。

 そして、目の前にはデザートであろうフルーツで彩られたアイスクリームの鉄板焼き。おそらく色々と食べてこれで最後なのだろうが、正直もう写真を撮ったりしている場合ではないのが現実だ。

 

 「てか、美桜。ちょっとやばいぞ。ネットの天気予報では吹雪になったとしても深夜からって書いていたし、昼があんなに晴れてたから何だかんだで大丈夫だと思っていたけど。ほら、外」

 「うわー、本当だ。ものすごい吹雪。でも、これじゃあちょっと家には帰れないよね」


 本当にやばい。この店の大きな窓から見えていたあれだけ綺麗な夜景が霞んでしまうほどの吹雪が吹いている。

 真剣にこれはタクシーもおそらくだが来てくれないんじゃないか? と言うか、スマホをちょうど確認しているけれど、電車も止まっている......? しかも運行再開は未定?


 完全に緊急事態。

 

 「す、すまん。美桜。何だかんだで大丈夫だと思った俺がバカだった」

 「いやいや、何も修平は悪くないって。そもそも私がどうしても今日が良いって言ったんだから。謝るのは私の方だよ」


 てか、ん? 何だ。何でそんなに落ち着いているんだ。美桜。

 しかも、むしろ笑っている?

 何で? 


 と、とにもかくにも、もしかして完全に詰んだか......?


 「でも、大丈夫だよ。修平」

 「え?」

 「ふふっ、この私だよ。こんなこともあろうかとこのホテルの上階の部屋を取ってあるから」

 「ま、マジ?」

 

 そうか。灯台下暗し。完全に盲点だった。

 俺も急いでスマホで空き部屋の確認をする為にこのホテルのホームページへ。


 「ん? 何してんの? 私もお昼にキャンセルがギリギリあって取れただけだから今からだともう無理だと思うよ。この時期だしね」


 た、確かに。今はもう全て満室。詰んだ。

 キャンセルが出そうな気配も......ない。


 「もう、ふふ、何て顔してんよ。一緒に泊まればいいじゃん」

 「え? 一緒に?」


 いや、こっちからしたら願ったりかなったりだけれども。い、いいのか? その色々と......。


 「それとも修平は私とじゃ嫌?」


 い、嫌とかじゃないけど.....。


 と言うか、何だまた。そ、その首をかしげながら甘える様な上目遣い。

 やっぱりこんな美桜見たことない。

 やばい。酔ってないとか思っていたけど。やっぱ俺酔っている? 

 何故だろうか。さらに彼女が色っぽく見えてしまう自分がいる.......。

 改めてそんな真正面で至近距離から見つめられるとちょっと.......心臓が。


 この動悸は酒のせい? やっぱり酔っている?

 と言うか、美桜もちょっと酔いすぎだろ......。

 い、色々とおかしい......。さっきも気づいたら料理じゃなく俺達の写真をあいつに送ってたし。


 「ねぇ、修平.......? 駄目?」

 「い、いや俺は別にそっちがいいのな........」


 って、ん? 何だ。電話? 


 「ちょっとだけすまん」

 

 そして誰かと思えばやはり戸田。


 「はい。高森です。何だ戸田。うん。迎えにいく? さすがにそれは無理だろ。結構だ。危ない」


 何でそんなに良くしてくれるのかはわからないけど、さすがにこの吹雪の中でお前にそこまでしてもらうわけにはいかない。と言うか、今日はやけに優しいな。


 「え? 状況。ほら、一緒にいる大学の同級生いるだろ。そう。美桜。が上の階の部屋を念の為に取ってくれてたみたいで一緒に泊めてもらうことになりそう。ん? いや、バカか。誰が友達にそんなことするか。いや、それは俺もわかってるけど。でも仕方ないだろ? こればかりは」


 そして目に映るのは何故かさっきよりも楽しそうな表情の美桜。

 らしくない。椅子の下でそんな子供みたいに足をゆらゆらと。


 「私は修平なら何をされてもいいんだけどな」


 ん? 美桜、今何か言ったか。戸田の声で聞こえなかった。

 とりあえず俺に向かって尚も何故か優しく微笑んでいる。


 それにしてもやっぱり俺、全然男として見られてないな......。あまりにも無防備すぎる。まぁ、そのおかげで助かったわけなんだだけれども。

 それに、友達だしそれは当たり前か。むしろ感謝だ。

 

 でも、そういうところも俺は架純からしたら駄目だったのかもしれないな.......。


 「うん。だから大丈夫.......って、え? ど、どういうこと? たまたま友達が天気予報見て吹雪で危なくなるかもしれないから予定をキャンセルしたけど.......。ホテルはキャンセルし忘れていて一室あいている? だからそこ使っていい? そ、そんなことある?」


 何だよ。その奇跡。いや、本当にそんなことある?


 って、ど、どうした。美桜。ゆらゆらとしていた足がピタッと止まって。

 ま、またとてつもない表情を.......? お、鬼? い、いや般若?


 え? また俺の見間違いか? え?


 「う、うん。1025号室? でもお金は? 戸田が立て替えてくれるってか? いや、でも。え? その分また何か奢ってくれたらいい? わ、わかった。とりあえず何かしらで返す。おう。マジでいいのか。ならお言葉に甘えさせてもらうぞ。あ、ありがとう。じゃあ」


 そしてスマホの電話が切れる。


 そ、それにしても何ださっきの美桜。

 今も一応、俺に微笑んではいるけれど。何だ。そ、そのこれでもかと引き攣った笑みは.......。


 何か。怖いぞ。いや、マジで。


 「ど、どうした。美桜。とりあえず何か奇跡的に俺の方も部屋確保できた......」

 「そう。戸田さんだっけ。面白い同僚さんね。ちなみに修平とはどんな関係?」

 「いや、普通にただの会社の同期だけど。それ以上でも以下もないただの同期」

 「へ、へぇ.......。そう。と、とりあえずちょっとお手洗いに行ってくるね」


 「あ、あぁ」


 何だ。さっきと様子が。

 あと、あれ? さっきまでふらふらとしてたのに。普通にまっすぐトイレに.......。


 それにしてもマジか。そんなことあるのか。これこそ奇跡だな。


 って、ん?


 また電話? また戸田か?


 いや、違う。 あれ? どうしたんだろう。

 彼女は今仕事中なはずだけど.......

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