第25話 金曜日の夜


 「やっぱ今日も外寒いね」

 「寒いな。若干雪も降ってきたしな」


 また急に降ってきたからな。さすがに吹雪は大丈夫だよ......な。

 とりあえず、もう俺達はお目当ての店の中にいる。目の前には、料理を焼くための綺麗に黒光りする大きな鉄板。

 そしてすぐ隣には大学の頃の友達、米倉美桜が座っている光景だ。

 あと、以前に来た時はお昼だったから気がつかなかったけど窓から見える夜景がすごい。降っている雪も相まってか、さすがの俺でも普通に綺麗だと感じる。

 やはり高級店なだけあって全体的にかなり落ち着いている雰囲気の良い店だ。


 あいつ、参考にしたいって言ってたし。とりあえず内観を一枚撮っておくか。


 「あれからどう? ふふっ、もう誰か次の良い人とか見つかってたりして」

 「いや、さすがに見つからないから」


 とりあえず、またそう言って覗き込むようにその大きな目を俺に向けてくる美桜が隣にはいるが、美桜ってこんなに人との距離感が近い奴だったっけ?

 それに、別にそう意味で見ているつもりはないが......さすがの俺でもちょっとその上着を脱いだ後の、身体のラインがはっきりとわかってしまう服装は目のやり場に困ると言うかなんと言うか。

 戸田の時もそうだったけど、やはり女性のニット姿は男としてだろうか、無意識に色々と意識してしまう。

 

 「そっか。じゃあ今年の修平はクリぼっちだね。ふふっ、何年ぶり?」

 「まぁ、強いて言うならば10年ぶりくらいか」

 

 あと、何だろうか。その長い髪を耳にかける仕草も何だか今日は妙に色っぽい? いや、俺がおかしいのか。どうした俺、気持ち悪いぞ.....


 「へぇー、私はずっと独りだなー。もちろん今年もね。一緒じゃん」

 「本当に意外だよな。美桜なんてどう考えたって引く手あまただろ」


 って、いつの間にか高そうな肉が鉄板の上で焼かれて。 

 それにしても、前にも思ったことだがこの肉が焼ける時の香ばしい音と香り。

 これだけで白米をとりあえず一杯かきこめる。

 目と耳と鼻で食を感じるとはまさにこのことなのだろう。

 シンプルに期待しかない。


 よし。とりあえず肉の写真っと。


 「ん? 修平、写真撮ってるの? あれ?珍しくない? そういうタイプだったっけ?」

 「いや、同僚に頼まれて。何か興味あるみたいで写真撮ってこいってしつこくて。それも逐一報告してこいって」

 

 で、あいつのlineに即送信っと

 って、あれ? 戸田。アイコンが自分の顔の画像に変わってる。

 相変わらず美人だな......


 まぁ、それはどうでもいいか。そんなことより


 「駄目だ。うまく撮れねぇ」


 何でだよ。


 「ふふっ、大丈夫? 私が撮ってあげよっか」


 美桜が? でもそうか。絶対そっちの方がいいか。


 「なら頼む」


 そう言って俺は自分のスマホを彼女に手渡す。中途半端な写真送ってまた機嫌悪くなられても嫌だしな。


 「ん? 誰これ?」

 「え、どうした美桜」

 「このアイコンの女の人」


 あぁ、lineの画面のまま渡してたか。


 「それが同僚。同期なんだけど中途半端な写真送ったら機嫌悪くなりそうな感じだから上手に頼む。キレたら怖いんだよ」


 真剣に。


「そう言えば美桜の写真見てものすごく綺麗な人って誉めてたぞ」

 「へ、へぇ......」


 だから綺麗に肉の写真を頼む。映える撮り方で。


 「こんな感じでどう?」

 「ん? って、めっちゃいいじゃん。え?超うまそうに撮れてる。すげぇな美桜」


 仕事が早い。相変わらず完璧かよ。


 「でしょ。良かった。じゃあ、ついでだし記念に私と修平の写真も一枚撮っとこっか」

 「ん? ついで?」

 「もう、何でもいいから。ほら。もっとこっち寄って。はい、チーズ!」


 まぁ、何でもいいか。


 「よし、こっちも上手に撮れた」


 って、もう旨そうに焼けた肉が目の前に置かれて


 やばい。冗談抜きでよだれが止まらない。


 「ふふっ、とりあえず上手に撮れたこの写真は私がこのまま送っておいてあげるね。修平は早くそれ食べて」


 「お、サンキュー美桜。でもマジで旨そう」


 では、いただきます!

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