第24話 嵐の前触れ


 「森高さん、今日の昼もカキフライ弁当っすか?」

 「悪いか?」

 「いやー、よく同じものをそう連続で毎日食べれるなーって」

 「うまいからな。お前も一個食うか?」


 美味しいから食う

 別に同じものを連続で食べては駄目なんてルールは、この世にもこの会社にもない。

 特に後輩。お前に文句を言われる筋合いは万に一つもない。


 「え? まじっすか。はい、あーん」


 って、ん? スマホに電話。


 「ちょっとすまん」


 誰から? って、美桜からか。何だ。


 「はい。森高です。どうした美桜」

 「今日は予定通り行けそう?」

 「あぁ、行けると思うぞ。何だかんだ外も普通に晴れているし、少なくとも俺達が外に出ている間は吹雪なんて起きないだろう」

 「そ。なら良かった。一応確認の電話。楽しみにしてるから」

 「それはどうも。とりあえず、また仕事が終わりしだい連絡する」


 何だ。そんな電話か。まぁ、とにかく吹雪とかは大丈夫そうで安心した。

 さっき言ったとおり、会社の窓から外を見ても今日は珍しいぐらいの快晴。

 さすがに数時間後にこれが吹雪になるとは考えにくい。

 

 「で、なんだっけ。あぁ、カキフライか」

 「いや、もういいっすよ。それより今の美桜って誰ですか~?」

 

 ったく、こいつはまたニヤニヤと。


 「前に言ってた大学の友達だ。お前の思っている様な関係のやつじゃない」

 「え~、ほんとっすか~? なら写真見せてくださいよ。写真」


 写真? まぁ見せるぐらいならいいか。美桜の場合、昔のミスコンの時の写真とかもまだ普通にネットに転がってるしな。


 「えーっと、ほら。これ」

 「え? ちょ、え?」

 「どうした」

 「い、いや美人すぎないっすか? は?」


 まぁ美人か美人でないかと言われれば美人すぎると言う回答になるのだろう。

 こいつの反応は間違いではない。


 「森高さん、この人と二人で今晩ご飯行くんっすか? 鉄板焼きでしたっけ。何でそんな」

 「いや、まぁ色々あって。ほら俺、結婚なくなっただろ。それで一応は励ましてくれたりしたんだけど、最終的にまんまと嵌められたと言うかな。要は奢り要因だ。お前の思っている様な関係では本当にない」


 まぁ、美桜には何だかんだで感謝しているけどな。本当に。


 「で、でしょうね」

 「あ?」


 わかってはいるけど。改めて言われると本当にムカつくなこいつ。マジで一回キレるか。


 「へぇ.......」


 って、

 「う、うおっ、何だ。いきなり。どうした戸田」


 何でそんな急に後ろに。いつからいた......。


 「ほんとに美人。さすがに彼氏とかいるんじゃない? ねぇ森高」

 「いや、それがいないみたいで。意味がわからねぇよな」

 「え? い、いないんっすか。こんな美人さんに!? 何で。マジで意味がわかんないっすよ」

 「本当にな。何か昔に聞いたんだけど。手を出せない相手を好きになっちまったみたいで。良い奴だし、応援してやりたいんだけど。こればっかりはな」


 さすがに不倫は勧められないし、何度も言うが彼女は死んでもそんなことをする性格ではない。

 

 「へ、へぇー.......。彼女とは昔からこんな感じでよくご飯とかは行くの?」

 「ん? いや、ついこの前に5年ぶりぐらいに会って。その流れでまたって感じかな」


 って、な、何だ。何ていう顔をしているんだ戸田。

 怖っ。え? 何でそんなに機嫌が........


 「お、おい戸田。どうした」

 「いや、何も.......?」


 いや、確実に何もって顔じゃない。何でだよ。い、意味わからねぇ.......。


 「ところで森高。行くのは鉄板焼きの店だったっけ」

 「あぁ、そうだけど」

 「なら、出てくる料理の写真、逐一私に送ってよ」

 「は? 何で」


 マジで何で。


 「いや、それは、あれよ。私もその店に興味があるからよ」

 「なら、ホームページに一応色々乗ってるけど」

 「いや、最新の情報が欲しいのよ。私は。最新の!」


 な、何だ。やっぱり機嫌悪いな。


 「でも、ほら。お前も知ってるかもしれないけれども、俺ってそういう食いもんとかの写真とかパシャパシャ撮るのはあんま好きじゃないって言うか」


 何だかんだで昔から何か抵抗があってそういうことはしない主義。

 

 「何? 知ってるわよ。 でもアンタ私にまだ借りがあるはずよね。それぐらいしてくれてもいいんじゃない」

 「そ、それを言われると.....。ま、まあわかったよ。ただ上手く撮れるかはわからんぞ」


 なんせ慣れてないからな。


 「それは問題ないから大丈夫。じゃあお願いするわね。本当に逐一でお願いね。アンタ忘れるかもしれないから。撮ったらすぐ私にlineに送信。わかった?」

 「はいはい.......」


 まぁ、別に少々手間がかかるだけで特に難しいことでもないし、それぐらいはいいか。


 ただ、それにしても本当になんで急にそんなに機嫌が悪い。

 さっきまで普通。と言うか。むしろ機嫌良かっただろ。



 やっぱり意味がわからん.......。



 まぁ、いいか。とりあえずカキフライ美味い。

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