第22話 満腹な男


 あー、食った。食った。何だかんだで満腹。

 替え玉3杯も食ってやった。


 それにしても本当にラーメン食っただけだったな。

 

 帰ってくるのが遅くなることも普通に覚悟はしていたが、全然早い。

 もう自宅の最寄り駅。


 そしてそんなことを考えながら電車を降りた後の俺は駅構内のコンビニに。


 もはや癖。用がなくてもとりあえず入ってしまう。まぁ、明日の朝に食うパンでも買っとくか。

 あと適当にデザートと。もちろんお菓子は別腹。 


 何だろうか。彼女がいた頃はあまり無駄遣いとかはしないように心掛けていたんだけれども。その反動だろうか。今は仕事終わりにお菓子とか漫画雑誌とか細かいものを色々と買ってしまう。


 お、ココアも買うか。やっぱり冬は温かいココア。

 いや、ミルクティーも好きだが.......今日はとりあえずココア。


 「え?」

 「ん?」


 って、や、山本さん.......?

 知っている声だと顔をあげたそこには、間違いなくさっきも一緒だった隣人の山本美貴さんがいる光景。


 「あれ? お仕事は?」

 「あ、えっと、その体調がちょっと優れなくて早退的な.......」


 やっぱり体調がよくなかったのか。明らかにおかしかったからな。

 あの時に気が付けなくて本当に申し訳ないと思う。


 「大丈夫なんですか?」

 「は、はい。一応大丈夫です。ところで森高さんもちょっと早くないですか? その......クラブ? で遊んできたんですよね......」

 「いえ......何というか。あいつのお気に入りの子がいなかったみたいで結局のところ。何もせずにすぐ帰ることになったと言いますか。ラーメンだけ食べて帰ってきました」  

 「そ、そうですか」  


 そして最悪だ。しっかりと覚えてられている。


 「ちなみに、なら日を改めてまた別の日に行くとか......?」

 「え? い、いやそれはないです。そもそも俺は全く乗り気じゃなかったですし。さすがにもう行くことはないです」


 実際は仕方なく、明後日にまた行くことになったんだけれども......。さすがにそこまでしてクラブに行きたがってる男に見られたくはないし、本当に違う。それにそもそも彼女には別にこの嘘がバレることもない。問題ない。


 「そ、そうなんですね。」

 「はい」


 だから俺はやつとは違う。勘違いはしないでいただきたい。切実に。


 「ちなみに.......。も、森高さんはああいう場所で働いている人たちのことをどう思いますか? あ、別に意味とかはないんですけどその.......」


 ん? そして何だいきなりその質問。


 「いや、特にはなにも。強いて言うなら大変そうだなーとかやっぱり給料とか普通よりはかなり多いのかなーとかですかね」


 本当にそこらへんは特に何も思わない。ただよくドラマとかでもそういう場所に遊びに行った旦那が奥さんに怒られたりするシーンをよく見るから、やはり女性的側からしたら印象はよくないのかとは思ったりもするがな。


 まぁ、それはそうか。かなりのお金がかかるだろうしな。家計的には大きくマイナスだろう。それにやはり私がいるのに何で他の女とお金を払ってまで遊ぶ必要があるのってなるだろうし。


 「まぁ、あとやはり客観的に美人の人が多い印象ですかね。実際にあいつがやたら推してくるミキちゃんって子も一瞬写真で見ただけですけど。かなりの美人でしたし。あ、でも別にどうこうなりたいとかは本当全然ないですよ。あくまで客観的に見てです」

 「そ、そうですか」


 ん? 今度は何だ? モジモジ.......? いや、違うか。


 とりあえず、やっぱり今日の山本さんは何かがおかしいな。


 「でも、本当にもう行くことはないですかね。今までも行ったこともないですし。やっぱりちょっと煌びやかすぎて世界が違うと言いますか。はは、自分には絶対合わないと思います」


 そして念のために2回目の嘘をまたついてしまう俺。

 まぁ、嘘ではないか。本心だしな。明後日を最後に実際にそれ以上行くこともない。


 でも、俺には関係ないけど。美桜とかも彼氏がそういうところに行ったら絶対に怒りそうだよな.......。戸田なんて絶対に怒る。

 

 まぁ、とりあえずあいつも一回かっこつけたら気が済むだろう。

 それにしても土曜日の夜もか。


 明日も美桜とご飯だし。最近の俺、何だかんだでかなり忙しいな。


 まぁ、今は全然そっちの方がありがたいけど.......。



 って、あれ? 


 いや、あそこの改札の前にいるのって.......



 架純.......?



 「ん? どうかしました? 森高さん?」

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