第21話 降りない女
いや、何だこれ。
「替え玉いっとくか? 奢るぞ」
「いや、大丈夫」
旨いけど、大丈夫。と言うか、マジでラーメン食って終わり?
しかもどこにでもあるチェーン店で男二人。
さらに、その財布から見えているのはどこからどう見てもここの割引券。
ちょっとなげやりすぎないか......?
「なぁ、隆志。今日は一応、俺を励まそうとして連れてきてくれたんだよな......」
「おお、もちろん。だから奢るって。味玉とかトッピングも好きに食っていいぞ。チャーシューもいっとくか?」
いや、別にそもそも乗り気じゃなかったからいいんだけれども、当初に俺に奢ると言っていたものは明らかに別のものだっただろう.......。一応、こっちもそれなりにシミュレーションと言うか身構えていただけに、何と言うか完全に拍子抜け。
そもそも今のお前のそれは俺を励まそうとする態度では確実にない。あからさまに、さっきの電車の時とはテンションが180度違う。
まぁ、そう言うことなんだろう。そう言うことでしかない。
「それにしても、ミキちゃんが体調不良で休みって。そんなのあるか? せっかくお前に会わせたかったのによ。ちゃんと事前に今日が出勤日ってのは確認してたんだぜ?」
そう。こいつがただただそのミキちゃんに会いたかっただけだ。
お目当てがいないと分かった時のこいつの行動は実に素早かった。
座る前に即退店を決め込んだからな。一瞬だった。
あの時に、俺にクラブの良さをこれでもかと力説していたお前はどこに行った。
やはりクラブよりもミキちゃん。俺よりもミキちゃん。
こいつの中では全てがもうそのミキちゃんだったのだろう。
おそらく奢ってくれると言うのは本当だったのだろうが。
目的は俺を励ますことではなくミキちゃんの前でかっこいいとろこを見せたかっただけ。
もうそれしか考えられない。
まぁ、正直もう何でもいいけどな。
俺は何も損はしていないし。強いていえば時間を奪われたぐらいか。
それにしても、そのミキちゃんはもしかしたら今ごろ山本さんの病院にいたりして。と言うか、山本さんって結局どこの駅で降りたんだろ?
結構、家から遠い病院に毎日通っているんだな........。
本当に大変だと思う。
あと真剣にさっきの山本さん。ちょっとおかしかったな。いくらこいつが気持ち悪いとは言えだ。あんな感じになっている彼女を見たこともないし、かなり心配。
何事もなければいいが。
明らかに挙動不審な感じだったからな.......。
本人は大丈夫だとは言っていたけど、ほんと一体どうしたのだろうか。
「おら、餃子も食え。唐揚げも」
そして見事に、こいつはクーポンに記載のあるメニューばかりを勧めてくる。
まぁ、味はやはり安定のチェーン。旨いから食えるものは食うが、ちょっと.......。
でも、そうだな。
結局、明日は予定通り美桜と晩御飯で金は使うし、事前に金を降ろせたとでも思っておこう。
「すみません。チャーハン追加で」
でも、明日は本当に天気的に大丈夫か?
まぁ、美桜がどうしても明日がいいって言うからいいのだろうが......
でも本当に心配だな。
一応、山本さんには連絡を入れておくか。
「あ? 土曜にゆっくりもう一回行きたい? 嫌だよ」
「頼む、一生のお願い。ほんと奢る、お前にはミキちゃんにどうしてもあってもらいたいんだ」
はぁ、どうするか。
でも断ってもどうせまたしつこいしな......
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