第20話 降りる駅


 「乗る電車まで一緒でしたね。森高さんはどこの駅で降りるんですか?」

 「えーと、どこだったかな。確か4駅先ぐらいですかね」

 「あ、じゃあ私よりも早く降りられるんですね。残念です」


 とりあえず、家からずっとここまで山本さんが隣にいる状況。

 まさに電車の中でまで、癒し時間が継続中。


 今もすぐ隣には、外が寒かったからか手をすりすりとしながら手の平に息を可愛らしく吹きかける彼女の姿。

 いちいち彼女は仕草が女性らしくて可愛い。

 本当に見ていると癒される。


 これ、真剣にもうこのまま隆志の誘いは断ろっかな。外を見てもやっぱり雪とかもまだ降っていないし。気分が良い今のうちに帰りたい。

 見えるのは夜の電車の大きな窓に反射する山本さんの優し気に微笑む姿だけだ。


 でも、すごいな......。これから仕事だと言うのに隣に座る山本さんは本当にずっと笑顔を俺に向けてくれている。本当にできた大人だ。俺ならば仕事がこれから控えているのであれば何だかんだで少しはやはりしんどい顔になってしまう気がする。彼女は歳下だが真剣に頭が上がらない。

 こんなの絶対に病院でも信頼されているし、患者さんからの人気も高いに決まっている。俺も万が一、入院とかすることがあれば彼女の病院でお世話になりたい。


 「ふふっ、どうしました? 今日会うお友達さんからですか?」

 「はい。そうなんですよ。今、電車の中だから出れないって言ってんのにしつこく電話かけてくるんですよ。バカな男です」


 本当に。バカかよ。

 って、何だ。今度はline? 右を向け?


 ん?


 「あ.......」


 指示の通りに首を右に向けるとそこに見えるのは。間違いなく自称ぽっちゃり系のバカの姿。


 隆志.......。


 同じ電車に乗っていたのか。と言うか、やっていること中学生。

 しかも、そんなことを考えているとズカズカともう俺の目の前に。


 「おう、修平! って、こ、こちらの可愛い方は?」

 「あぁ、隣人さん。今から仕事みたいでたまたま一緒になったんだ」

 「あ、ど、どうも。自分、村岡隆志って言います。修平の面倒を見てます」


 はい。すべった。しかも何だそのデレデレとした顔は。

 ほんと美人相手だと見境なしかよこいつ。気持ち悪い。


 「あ、どうも。私は森高さんにいつもお世話にな.........っている。や、山本で......す」


 ん? どうした。気のせいかもしれないけど。今、何か山本さんの様子がおかしかった気が。


 「あれ? 山本さんだったっけ。どこかで俺と会ったことあります?」

 「いや.......ありません。絶対にないと思います」


 はぁ、こいつ。


 「おい、そんな糞のテンプレみたいなナンパすんな。山本さんはお前では絶対に無理。人としての格が違う。彼女に迷惑だけはかけるな。マジでお前と違って良い人だから。ふっ、お前と違ってな」

 「はぁ? 何だよそれ。俺が良い人じゃないみたいじゃねぇか」

 「いや、実際そうだろ......」

 「おいおい、そりゃないぜ修平。これからクラブで良い女紹介してお前の失恋の傷を癒してやろうって言っている俺だぜ」

 

 本当に俺のことを癒してくれようとしてくれているのであれば、ありがたいことこの上ないが、お前の場合は確実に目的が別にある。むしろそっちがメインでしかないだろう。


 「ま、確かに思い出せないと言う事はないんだろう。すみません山本さん。って、修平、お前ぼーっとしてるみたいだけけどよ。お前降りる駅とかちゃんと把握してたのか? ほら、言ってみろ」

 「あ? 今いるところ的に......あと2駅先だろ?」

 「バカ、3駅先だ」


 くっ、屈辱。こいつにバカと言われたらもう終わり。


 でも、とりあえず本当に山本さんには申し訳ないと思う。こんな野郎にうざ絡みされてしまうことになって。しかもこんな仕事前のしんどい時間帯に。

 

 「すみません。山本さん。このバカはすぐに別の車両に追っ払いますんで」


 って.......ん?


 どうした。 いきなり何でそんなに目が泳いでいる様な......?


 え? や、山本さん?

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