第18話 仕事終わりの駅のホーム

 18時か。


 とりあえず、電車を待つ時間も寒い。色んな意味で......。

 ホームのベンチで座る俺の後ろにも、同じ様に座っている奴等が二人。

 制服を着ているし、二人とも学生であることは間違いないのだろう。

 高校生カップルが駅のホームでイチャイチャか......。


 「先輩、どうせクリスマスは暇でしょ? 仕方がないから私が遊んであげましょうか?」

 「いや、俺も忙しいから。色々と。マジで色々と。だから勝手に決めつけんな」

 「えー、色々って何ですか? 詳しく教えてください」


 そして、先輩......か。

 懐かしいな。後ろから聞こえてくる声についつい昔を思い出してしまいそうになる。


 不幸にも声だけでなく、喋り方までとそっくりときた。


 今日はいつもより少し会社を出るのが遅くなったかと思っていたが、これは後悔でしかない。


 「知ってます? 私ってモテるんですよ。その私がクリスマスの大切な時間を先輩にあげるって言ってるんです。ふふっ、これがどういうことかわかりますか?」


 しかも、話す内容まで似ているときた.......。

 さっき、チラッと振り返ってしまったが、その実際にモテそうな雰囲気もまるであの頃の彼女を無意識に重ねてしまう。


 駄目だ。蓋をしていたつもりでもどんどんと溢れる様に俺の脳内にはあの頃の彼女との思いでがフラッシュバックしてしまう。


 楽しかった思い出が......。


 そして、不覚にも涙腺が熱くなってくる。

 大人になっても昔からの名残でそう呼ばれていることが多かっただけに、全然関係のない後ろの彼女の『先輩』と言う言葉に涙腺が緩くなってくる。


 本当に何が駄目だったんだろうか。いや、何が駄目だったかがわかっていないところが駄目なのだろうか。

 向こうは俺は何も悪くないと言ってくれたけど、それなら浮気なんてされないわけで.......。


 実際に俺は昔から変わらずずっと仲良くやれていると思っていたから。

 まぁ、今となっては俺が思っていたのかもしれないが......。

 

 でも、ほんと自分から降ったくせに何をひとりでずっと考えているんだろうな俺。

 末期だ。末期すぎる。


 今も最後に見た彼女の泣いた姿を思い出してもしかしたら、まだ......なんて思ってしまっている自分が恥ずかしくもいてしまう。

 大馬鹿だ。


 実際に俺はこの目で浮気を確認したし、彼女も認めた。


 なのに俺はなんて馬鹿なんだろう。本当に。


 もう帰ってこないものを俺はいつまで......。


 

 しかもこんなタイミングでまた誰から電話だ。

 


 って、はぁ。またお前か。


 「何だ。隆志」

 「おい、修平。今日こそクラブ」

 「わかった......」

 「は? い、いいの?」


 いいの?って、お前がしつこく誘ってくるんじゃねぇか......。


 「奢ってくれんだろ? よくわからんけど、お前がそこまで楽しいって言うのなら一回行ってみるわ。それに別にぼったくりとかそういう変な所じゃないんだろ?」

 「も、もちろん。奢るし、全く変なところではない。上品な大人の社交場。何度も行ってる俺が保証する」

 「じゃあ、頼むわ」


 何となく、脳に色んな意味で刺激を与えたい。このままだと俺は本当にまずい。

 

 「おっしゃ、場所と時間はすぐにlineで送る。今日はミキちゃん紹介してやるから待ってろ。絶対にハマる」

 「はいはい」


 まぁ、ハマることはないだろうが、今の状況ならまだそっちにハマった方がいいのだろうな......。


 とりあえず、早く忘れたい。

 と言うか、忘れなければならない。


 架純のことは.......。

 

 

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