第13話 酒の力②


 「駄目? 私もそれはわかった上で言ってるよ......」

 「戸田......」

  

 彼女を見て改めて感じるが、やはりこいつも相当なストレスが溜まっているのだろう。そうだよな。あれで溜まっていないわけがない。


 俺は特に、いつも傍でこれでもかと気を張って頑張っている彼女を見ている分、余計にそう思ってしまう。

 こいつはまさに他人よりも自分に厳しい人間を体現した様な女......

 極端なまでに人に弱さを見せてこない。


 「森高? いいの? 駄目なの.......?」

 

 それにそういう性格からなのだろうが、普段のこいつは会社の飲み会とかでも

 むしろ率先して早めに帰るタイプだと俺は知っている。

 明日に仕事があるのであれば尚更だ。


 そんな戸田が、今日はいつもとは違う顔をしている......。

 

 今も酔っているからだろうが、その壁にもたれる彼女の赤くなった顔はずっと俺の目を見て離さない。いつも後ろに結んでいる髪だっていつの間にかほどけていて、いつもよりさらに戸田に色気と言うか女性らしさを感じてしまう自分がいたりもする。


 とにかく、こんなに無防備な戸田を俺は今までに見たことがない。

 

 おそらく、こいつの中で何かがあったのは間違いないと思う.......。

 いちいちこちらから詮索するような野暮な真似はしないが、俺も最近あんなことがあった後だから気持ちはわかる。


 「行くか? 戸田がいいのなら」


 言い方はどうあれ励ましてくれたのも確かだ。 

 それに何だかんだで普段は見せない様な顔を俺に見せてくれることに悪い気分はしない。一応、同期として俺のことをちょっとは信用してくれていると勝手に思いたい。


 「私がどうこうじゃなくてさ。森高はどうなの.......?」 

 「俺?」

 「うん。どうなの.....?」


 まぁ一応、終電コースは確定だろうが、俺も今日はもうとことん飲むつもりだ。

 それにそんなまっすぐな目でお願いされたらさすがにな。


 「あぁ、俺は覚悟ができているよ」

 

 それにご祝儀のこともあるしな。


 「そ、そう。私も」


 まぁ、最悪タクシーだってあるしな。とことん付き合う覚悟はある。


 「じゃあちょっと先にお会計済ましてくるから。ここは本当に俺が出すから。出させてくれ」

 「う、うん。ありがとう」


 何だ。やけに素直だな。雰囲気もさらに柔らかくなっているように感じるし、ほんと相当酔ってるな。


 とりあえず、俺はそんなことを考えながら静かに障子をあけてレジへと向かう。


 お会計はあっちだな。

 いや、違う。こっちはトイレか。あっちだな。

 やばい。俺も何だかんだで相当酔いがきているな。


 駄目だ。伝票まで忘れた。


 そして仕方なく戸田がまだいる個室へと戻る俺。


 「すまん、戸田。そこに伝票......って」


 あれ?


 

 ね、寝てる? 


 

 「おい、戸田」


 駄目だ。起きない。

 まぁ、それはそうか。あんなに飲んだらな。


 とりあえずまぁお会計......って。待てよ。

 もしこのまま起きなかったらどうする。そもそも今のこいつまともに歩ける状態なのか?


 「戸田!」


 やばい。起きない。こいつ、気持ちよさそうに熟睡してやがる。

 マジでどうする。俺、こいつの家も知らないぞ。でも、そんな。俺の家に泊めるなんて普通に無理だ。なんせ、もし明日の朝になってこいつが今日のことを覚えていなかったとしたらそれはもう大変なことになる。


 やっぱり今日のお前はとことんお前らしくない。2軒目行きたいって言ったのも間違いなくそっちだ。それを本当に何をそんなに気持ち良さそうに.......。


 どうする.......。


 ん? いや、待てよ。


 本当に申し訳ないけど。もうそれしか手はないか。

 それに懸けるしか.......。


 確かここに来る前、今日は仕事ではないって言ってたよな。

 と言うことはもう家に帰ってきている可能性も高い.......。


 本当に心から申し訳ないと思うが、ちょっと迷惑かけさせてもらいたい。


 すまん。


 山本さん......。

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