第12話 酒の力


 「でも今日は何だかんだで助かった。ありがとな、戸田」

 「別に。仕事に集中できていないアンタを見てるのがイライラして言っただけだから。ま、感謝されるのは悪い気分じゃないけどね」


 相変わらず素直じゃない。こっちが褒めたり、感謝をしたりすると必ず何か皮肉を込めて返してくる。何故か俺には特に。まぁ、そう言う性格ってことは十分理解しているからその点については別に嫌な気は全然しないけどな。

 

 そして一応、〆のラーメンも食べて今日はそろそろお開きと言ったところか。

 何だかんだで楽しかったとは思う。もつ鍋も普通に美味しかったし。 


 でも、本当に今日はどうしたのだろうか。雰囲気がいつもより柔らかいとか思っていたら、結果的にはものすごいペースで酒も飲んでいた。

 らしくない。

 こいつとは仕事の大勢での飲みとかでなら何度も一緒になっているがこんなに飲んでいる姿は見たことがなかったからな。

 

 別に飲むことで極端に笑い上戸になったり泣いたり、甘えたり、みたいなのは、やはりこいつだから無いみたいだけれども。顔が火照ったみたいに赤くなっている。普段よりも目もトロンとして何だろう。色気を帯びた顔とでも言うのだろうか。とにかく確実に酔っていることは間違いないだろう。


 やはり普段仕事で張りつめている分、色々と溜まっているのだろう。

 こいつのこんな表情も初めて見た。

 

 「おい、戸田。あんまり無理しすぎんなよ。何か手伝えることあったら俺もたまになら手伝うから」


 何だかんだでこいつにも普段世話になっているしな。


 「なによ。そういうのはまず私を抜かして営業成績1位になってから言いなさいよ.......」


 で、また皮肉で返ってくる。まぁ想定内だけど。


 「待たせるし」

 「だからそれは悪かったって。ほんとその件についてはすまん」


 30分も待たせたのは事実。おかげで明日も仕事があるのにもう夜の10時。


 「こんなこと言ったら本当は駄目なんだろうけど......」


 何だ? 言ったら駄目なことを言おうとしてる? やっぱりずっと内心では怒ってたのか? 



 「待ってたんだから。本当に......」


 

 ん? 何の話をしている?

 やっぱりかなり酔っているな。こいつ。本格的に酔いが回ったか?


 って、あっ、そうだ。酔っているこいつには悪いけど。

 今のうちにこいつにも返しておこう。ご祝儀。


 「すまん。戸田。これ返す」


 そしてその俺の手に持たれているご祝儀の袋をじーっと眺める戸田。


 「あ、もちろん。ここの会計は俺が出すから。それとは別だから安心しろ」


 そう言うことか。もちろんここは俺が出すつもりだ。今日の礼もかねて。


 「ねぇ、そのまま返すの?」

 「え?」


 駄目だったか? 何か俺が知らないだけで実際は特別なマナーがあるとか?


 「ならいらない......」

 「い、いらない?」


 いらない? こ、こいつまで。

 戸田なら性格的にすぐにでも受け取ると思っていたんだけどどういうことだ。


 「その代わり......」

 

 ん? その代わり?

 しかも何だ。今度は俺の目をそんなにじーっと見つめるように。


 「そのお金で今から2軒目いかない?」

 「え? 今から?」

 

 いや、もう時間も時間だぞ。


 「でも、もう22時だぞ。明日もお互い仕事あるし......」


 やっぱり酔って言ってる? 時間もわからないぐらいに。

  


 「駄目? 私もそれはわかった上で言ってるよ......」

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