第11話 もつ鍋
何とか思い出したけど、間に合わなかった。
一応、遅れるとは電話したけど確かここら辺だった気が。
ここか? このビルの2Fだな。
あいつ、先に
そんなことを考えながら俺は急ぎ足でエレベーターに乗り込む。
そしてやっぱり寒い。走ってもこれだもんな。
何だかんだで今日も雪降ってるし。もう息も白い。
着いた。2階。
えーっとここじゃなくて、あった。あそこか。
とりあえず飲食店がずらーっと並んでいるフロアの奥にあいつが来いと朝にメールをしてきた店が見える。
30分遅れか。先に連絡を入れておいたとは言え性格上、絶対怒ってるだろうな。
文句があったら来いって言われて結局のところ文句がなかったから忘れていた。俺もあの返信だと行くとも行かないとも言ってなかったし。で、連絡してみたら案の定あいつは飲むつもりでいたからな。しくじった。
「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」
「いえ、すみません。連れが一人もう
「かしこまりました。ご案内します」
何だ? 居酒屋は居酒屋なのだろうけど個室居酒屋?
「こちらにいらっしゃいます」
「はい。ありがとうございます」
俺は案内された個室の障子を恐る恐る開ける。
絶対怒ってる。
「すまん。遅くなった」
「おっそーい」
そしてそこにいたのは戸田奈緒.......なのはあたり前なのだけど。
あんま怒ってない?
「ま、ちょうどもう鍋もできそうだから良いタイミングだったんじゃない? あ、森高。もしかして、もつ鍋嫌いだったりする?」
「いや、普通に好きだけど」
むしろ大好物と言っても過言ではない。
「なら良かった。ほら、座りなよ」
「あ、あぁ。ありがとう」
ただ、何か本当に全然怒ってないな。戸田。
助かった。もしかしてもう先に飲んでで良い感じに酔ってるとか?
でもなさそうだな.....。ちょっと逆に怖い。
とりあえず、座敷のテーブルの上には今まさにぐつぐつと音を立てて煮立っているもつ鍋がひとつだけ。向かいにいる彼女の側にもまだ何もない。
「なに飲む森高? あと追加で何か頼む? ちなみに私はこの日本酒」
そしてそう言って戸田は俺の前にタッチパネルを向けてくる。
あー、俺ももつ鍋には日本酒なタイプだけどぱっと見何でもいい。
「じゃあ俺もとりあえず一緒ので」
「おっけー。お刺身も頼む?」
「あぁ、頼もう。旨そうなやつで」
何かむしろいつもより機嫌が良い? いや、雰囲気が柔らかいのか?
今思えばこいつの私服姿とか見るの何気に初めてだな。
いつもは完璧にピシッとしたスーツ姿だからな。
へぇー、普段はニットとか着るのか。
ギャップと言うかちょっと意外だな。まぁ、元がいいから普通に似合っているんだけど。
と言うか、こいつと二人で飯自体が何気に初めてだな。
「なぁ戸田、他にも誰か来るのか?」
「え? 何で? 二人だけど」
「あぁそう」
やっぱり二人か。別にいいけど。
「私と二人は嫌?」
「いや、全然嫌じゃないけど」
「ふふ、なら良かった」
何だ? やっぱり今日は何だか雰囲気やわらかいな。
まぁ、俺としては全然こっちの方が良いからいいんだけど。
元々普通に説教くらうと思ってたしな。
でも実際、今日は何で呼ばれたんだ?
まぁ、何でもいいか。聞いて機嫌悪くなられても嫌だしな。
もつ鍋食べよ。
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