第9話 会社と無言のガッツポーズ
今日はとりあえず10時半から外回りが1件入っているが、何だ。
ちょっと頭の整理が追いつかない。
おかげでさっきからパソコンのタイピングミスがものすごいことになっている。
俺は何回【delete】ボタンを押せばいい。
今も『ンjぢオアいbふぃに帯イオエアjん陰fアン陰ンjぢん』とかなってるぞ。
おい、止まれ。俺の指。一体何を書いている。
それにしてもだ。
ついさっき課長に呼びだされたと思ったら
『今回は残念だったな。後は俺がうまくやっておいてやるから、それにお前はまだ若いからまた良い人が見るかるさ』って。
何で知っている。
そして何で半笑いだ。そして何で皆こんなに優しい。
皆、コーヒなんて普段入れてくれないだろ。何か手伝えることがあったら言ってくださいなんて言ってこないだろ。普通、後輩に肩を優しく叩かれて無言でガッツポーズなんてされないだろ。
おい、どうなっている。これもう皆絶対に知っているだろ......。
でも、どこから漏れるって......もうそんなのあいつしかいない。
だって、そもそもこの会社ではあいつにしかそのことについてはまだ言っていない。
同期の戸田奈緒
あ、あいつ、やりやがった.......。
しかもあいつ今日は朝一で出張に行ってやがる。
くっ、しかも直帰かよ。
一体どういうつもりだよ。後で速攻lineで問い詰める。
って、今まさにその戸田からメール。何だよ。
『こういうのは早く言っておいた方が良いと思ったからもう私が課長に言っておいた。自分では言いにくいでしょ? 文句があるなら今日の夜19:00にここに来なさい』
ここ? このurlのところか。居酒屋?
いや、文句ってそんなの大あ......
でも、そうか。
まぁ、確かにあいつの言うことも一理あるか.......。
今日だってまたなんだかんだで朝の朝礼では言い出せなかったのは事実。
特に昨日の山本さんの反応が脳裏を横切って躊躇してしまった。
あいつが本当にそこまで考えて課長に言ってくれたのかどうかは置いておいて、確かに、どうせこうなるのであれば早い方が良いのは間違いなくそう。
素直にそう思うのは癪だが結果としては助けられたのか......。
『いや、助かった。すまん』
今回ばかりは文句は.......ないことにしておく。
実際、助かったしな。あいつなりの優しさと都合良く受け取っておこうと思う。
そんなことを考えながら俺は彼女にメールを返す。
でも、そう考えたらかなり身体も軽くなった気はする。
今日は午後から結構大きな商談も控えていたし、やっぱり普通に助けられたな。
とりあえず、今日も1日頑張るか。
ただ、そこのお前。
そろそろ一回キレるぞ。
お前が俺の破談と共に結婚報告なんて会社に流すもんだから躊躇してたところもあるのに。
何だ。その俺と目が合う度にしてくるその無言のガッツポーズ。
もし本当に気遣ってくれているのであればありがたいし、申し訳ないけども。
間違っているぞ。色々とそれは......。
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