第8話 隣人と心からの応援

 あぁ、やっぱり外は寒い。早く家の中に。

 鍵はどこだ。ポケット? 財布? バックの中?

 あった、あった。まぁ、さすがにポケットには入れてなかったな。


 しかもついさっき本当に雪が降ってきた。電車を降りたと同時に。

 今年の初雪か? 少なくとも俺の中ではだが。

 そしてやっぱり手がかじかむな。


 「お帰りなさい。森高さん」

 「あ、山本さん。ただいまです」


 そうか。時間的にもうそんな時間か。外も暗いしな。

 マンションの隣の家のドアからは山本さんの姿が現れる。


 それにそうか。山本さんの仕事的に、祝日もないか。大変だな。

 看護師さん。本当に大変な仕事だと思う。尊敬する。


 「ふふっ、頭に雪が積もってますよ。可愛い」

 「え? あぁ、ははっ、急に降ってきたもんで」


 可愛いか。あんまり言われてうれしい言葉ではないんだけれども

 何故か山本さんに言われても嫌な気はしない。

 何故だかはわからないけれども。


 かなりの癒し系だからかな。確かその髪型はサイドポニーテールと言う名前だったっけ?


 その肩にかかる黒髪の清楚で素朴な感じも、ものすごく癒される。

 何というか美人だし、とにかく良いお母さんになるだろうなって感じ。

 保育士とかもかなり向いてそう。子供に絶対人気でるだろう。


 ただ、スレンダーなのは良いんだけど。ちょっと細すぎる気もする。

 もうちょっと食べてもいい気はするが、まぁそれは余計なお世話か。


 「あ、それと森高さん。ちょっとだけ時間いいですか」

 「はい。俺は全然いいですけど。どうしました」


 山本さんが時間あるのなら全然。


 「はい。一応言っておこうと思いまして」

 「はい」


 何だ。顔つきが真剣に。

 

 「率直に申し上げると私もここを出ていくことにしたんです」

 「え? そうなんですか!?」

 「はい。私も心機一転してまた人生みつめ直してみよっかなって。まぁ、森高さんみたいに結婚とかそんな良いモノではないですけどね」


 あ、そうだ。この前の時は結局言えなかったんだ。

 俺、結婚しない......。結婚なくなった......。


 「そ、それは寂しくなりますね。本当に」

 「はい。なのでお互い心機一転して頑張りましょうね。でも森高さんには本当に返しきれない恩もありますし、何かあったらいつでも相談してください。これでお別れってわけは絶対ないですから」

 「い、いやいや全然。あれは本当にたまたまですし、そんな.....」


 そうか。でも言うならもうこのタイミングか。

 本当に寂しくはなるけど、逆に後腐れもなくなるからな


 「あ、や、山本さん。俺からも一つだけいいですか」

 「はい。なんでしょう」


 そんな純粋な目をされるところ非常に言いにくいのですが.......


 「あの......ちょっとまぁ、お恥ずかしい話ですが」

 「いえいえ、大丈夫ですよ。何でも言ってください」


 それはありがたいパス.......。


 「はい。あの.......俺、結婚が破談になりまして」


 本当にお恥ずかしい話


 「え? は、破談!?」

 「はい。なので実はマンションもこのまま俺の場合はここに住み続けることになりまして。なので本当に寂しいのですが山本さんの新天地での人生を心から応援しています........」


 「え? は、破談? へ? ひ、引っ越しなし? え? 結婚が無くなったってこと? へ? どういうこと? え?」


 ん? ど、どうした山本さん。様子が何か。


 「ま、まぁ色々ありまして、ちょっと色々と。あ、でも本当に俺の方こそ何か困ったことがあったら力になれるかはわかりませんけど連絡くださいね。山本さんには本当に色々とお世話になったと思っていますから。本当にです」


 「え? 別れた? 色々? 引っ越しなし? 何で私引っ越し? え? そんなことある?」


 やばい。確かに普通はそんなことはないよな。結婚前直前に破談。無いわけではないのかもしれないけれど、本来は普通にないこと。

 そしてその反応はちょっと恥ずかしい。いくら後腐れないと言っても恥ずかしくなってくる。え? 山本さん、何か混乱してる? それほど?


 「そ、そういうことなんで。と、とりあえず仕事頑張ってください」


 そう言って俺は素早く自宅に避難。ドアノブの鍵を内側からこれでもかと力強くかける。

 ちょっと恥ずかしすぎる。


 でも、まぁ本当に後腐れもないしな。まだましか。

 ただ、山本さんが引っ越しか。これは明日にでもすぐにお祝儀返さないとな。

 今急いで渡すこともできるかもしれないけど、ちょっとまたあの反応されたらやっぱり恥ずかしいから明日。


 って、また何だ。隆志から電話?


 「おう、どうした隆志」

 「なぁ修平、クラブ行こうぜ。絶対元気出るから。な、騙されたと思って」

 「いや、またそれか。だから今はいいって」

 「ほら、昨日一緒に撮ってもらったちゃんの写真も送るから。ほら送信。見ろって。超絶的に綺麗で可愛い」


 あ? 写真? 何だこいつ、酔ってんのか? 呂律も心なしか回ってないように感じる。


 で、あ、来た。


 俺の目にはlineの画面に映し出された一枚の写真。


 これが隆志が勧めてくる元No.1キャバ嬢で今はその店でホステスやってるミキちゃんって人か.......。


 まぁ、確かに美人だな。ものすごく。

 ちょっと想像以上。もっとケバケバしいのかと思ってたら普通に美人。

 いい意味で俺の予想を裏切ってきた。マジで綺麗だな。


 まぁ、だからと言って行くわけではないけど。


 でも、何となく誰かに似ているような......。

 誰かに.......。


 「おい修平、見たか? 見たよな。行きたくなったよな?」


 まぁ、いいか。とりあえずうるさいし電話切って風呂でも入ろ。


 寒い。寒い。


 

 「え? キャンセル、キャンセルできるのこれ?」


 ん? 何だ? 風の音でよく聞こえないけど外で何か言ってる?


 まぁ、とりあえず風呂入ろ

 

 

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