第5話 祝日に久しぶり

 天気はものすごく良いが......


 「やっぱ寒いな」

 ダウンがないとさすがにきつい寒さだ。着ていてもこれだからな。

 

 とりあえず、今は朝の10時前。やはり祝日だけあって人も多い。それにしても、ちょっと早く来すぎた気がする。


 でも何時いつぶりだろうか。あいつと実際に顔を会わせるのは......


 大学を卒業してからだからもう5年ぶりぐらいだろうか。


 まぁ、lineでならしょうもないやりとりはそれなりにしていたのかもしれない。本当にしょうもないやりとりを。ほとんどはあいつの愚痴、いや全てが愚痴だった気がするが。だいたい月1ペースぐらいか。


 実際に昨日のlineもまた彼女からだった。


 ただ、あんなことが俺にあったからだろうか、最近はやけに柄にもなく優しい気がする。

 まぁ、今日のことだって彼女のただの気まぐれでしかないのだろうけど、俺としてはありがたい。外出するにしても誰かが一緒にいる方がよっぽどいい気分転換になるだろうから。ちょうど祝儀のお返しもできるし。

 

 でも、もう12月に入ったからだろう。クリスマスはまだとはいえ駅前には大きなクリスマスツリー。ここだけではない、街の至る所にクリスマス関係の装飾がほどこされている。


 「すっかりクリスマスムードだな.......」


 そう言えば、何だかんだでずっとクリスマスに独りになることなんてなかったな。

 今年は10年ぶりの独りクリスマスか。


 まぁ、だから何だって話だけどな。


 「ふふっ、クリスマスがどうかしたの?」


 ん?


 「久しぶり」

 「お、おう。久しぶり」

 「でもちょっと早くない? まだ15分前だよ。まぁ、修平らしいけどね」


 う、後ろからか。

 つい不意打ちをくらってしまったが

 

 その懐かしい声の先には一人の美女がいる光景。


 その綺麗にブラウンに染まった長い髪も、そのモデルのように洗練されたスタイルも間違いなくあの頃の美桜。


 大学時代の友達、


 いや、でも何と言ったらいいのだろうか。 

 あの頃も美人だったけれども、大人っぽさもましてさらに美人になった気がする.......。ファッションとかも色々と。まさに大人の美人と言う感覚。


 そしてさすがミスコン1位の才色兼備の女。

 どこかのキー局のアナウンサーと言われても疑わないほどの存在だと言っても過言ではないだろう。


 さっきも急に後ろから現れたことに対してよりも

 正直、その彼女に改めて実感する美女オーラにうろたえてしまった自分がいる。


 「いい意味で変わってなさそうで安心した」 

 

 でもやっぱり懐かしい。どちらかと言えばクール見える風貌からくりだされる、そのあどけない笑顔。何も変わってない。


 「そっちこそな」


 何だかんだで、彼女のことを見ていると大学時代がつい昨日のことに思えたりもしてしまう。おかげでほんの少しさっきまでしてしまっていた緊張も嘘の様に消えた。


 「そしてようこそ。おひとりさまの世界へ」

 「いや、そのセリフはお前が言っては駄目だろ.......。誰が言ってんだ。お前なんて作ろうと思えばすぐにでも彼氏作れるだろう。てか、本当に何で作んないんだよ」


 本当に。俺の結婚を散々妬んだりしていたわりには何故か作ろうとする気配すら感じられなかった。忙しすぎてそれどころではないとかそういう理由か?


 「んー、何でだろうね。で、そっちはどうなの? また新しい彼女でもつくる? それとも当分はお休み的な?」


 新しい彼女か.......


 「まぁ、そうだな。やっぱ当分はいいかな。と言うかもうずっといいかも.....」


 少なくとも自分の中で完全に整理ができるまでは。どのくらいかかるかは全く今は予想もつかないが。


 「そっか。まぁ、あんなことがあった後だもんね。そうなっちゃってもおかしくないか......。んー。でも周りに良い人とかいないの? ずっとはちょっとさすがに寂しくない?」


 どうなんだろう。改めてずっとか。


 「とりあえず、いい人は......いないな。てか、そっちこそどうなんだよ。大学の頃みたいに今も絶対に入れ食い状態だろ?」


 客観的に見ても美桜はものすごくモテていたイメージがある。

 本当に何故その中から誰一人として選ばなかったのかが不思議なほどに。

 サークルの先輩や他大学の男、そしてミスターコンで優勝した男にも告白されたりしてたっけか。とにかくものすごいモテ具合だったことだけは覚えている。

 

 「入れ食いって......。あんた言い方。でも、まぁ入れ食い状態は否定はしないかな」

 「いや、一応は否定しろよ」

 「ふ、だって事実だから」


 くっ、こういうところも本当に変わらない。


 「じゃあ尚更、何で作んないんだよ。やっぱいらないの?」


 何だかんだ言って消去法的にはもうそれぐらいだろう。


 「んー。そんなことはないけど。まぁ、強いて言うなら好きになった男がどう足掻いても手の届かない位置にからかな」

 「へぇー、そう」

 「そ、心の中では諦めてはいたつもりではいたんだけど、どうしてもその男といつも比べちゃってね」

 「へぇー」


 やっぱりそっちか。それにしてもその男はすごいな。

 何でも1を手にしてきたであろう女がか。


 まぁ、例え美桜であったとしても全てが思い通りにはいってないというところか。

 ふっ、俺に関しては全てが思い通りにいっていないけどな。



 「とりあえずどこ行く? 予定どおり今日は美桜の行きたいところに付き合うぞ」




 



 

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