第2話 タイミングの悪い男
やばい。もう昼休みも終わりだと言うのに中々周りに言い出せない。
そもそもこういう場合はどう切り出していくのが正解なんだ。
「結婚を予定していた彼女と別れましたので皆さんにお祝儀をお返しします」と満面の笑顔でお金を返していく? それとも会社のweb掲示板に婚約が破談になりましたと大々的に載せてもらう?
前例を実際に見たことがないから色々と分からない上に、ネットの情報もよくわからないものばかり。黙っていても良いのであれば個人的にはそれが一番ベストなのだが、社会人としてそれがよくないことであることはさすがにわかる。
そして最悪だ。最悪すぎる。
何故このタイミングで新たな結婚報告が同じ部署で発生する......。
真剣に神は俺に何か恨みでもあるのか? ありえないだろこんなの。
こんなの絶対に言ったら駄目なやつ。
今言ったら確実に彼の結婚報告が台無しになるやつだ。言えるわけがない。
「なに、ぼーっとしてんのよ。結婚のことで浮かれているのかもしれないけど。そんなんだから森高はトップも取れないし私にも勝てないんじゃない?」
あぁ、しかも来た。このタイミングで俺の心を容赦なく抉ってくる女が来てしまった。
本当にお前は......。
全く浮かれてないし、トップをとれないとか言うな。特に今は。
「ちょっと無視はないんじゃないの? 無視は」
とりあえず、隣に立っているこのいかにもデキる雰囲気のうるさいスーツの女。同期の戸田奈緒だ。美人か美人でないかと問われればものすごく美人な部類に入るのかもしれないが、性格がちょっときついと言うか何というか。
別に悪い奴ではないのだろうけど、例えばプライドの高さとかが色々と.......。
俺に頻繁に絡んでくる理由だって、よくわからないけどこいつが落とせない営業先を俺がことごとく取ってきてしまうからとか何とからしい。そもそも俺としてはまずそんなことは意識していないし、成績はお前の方がいいんだから何の問題もないだろうと思ってしまう。ただただ勝手に目の敵にされても困ると言う話。
それに彼氏に求める条件とかもかなり多いみたいで本当に自分が認めた相手とじゃないと付き合いも結婚もしないとかを飲みの席で恥ずかしげもなく大声で断言していた。まぁ、こいつの相手になる男は大変だろうなと思う。絶対に扱えきれない気がする。
とにもかくにも何をするにも一番じゃなきや納得のできない性格の女。
「いや、無視じゃねえよ。ちょっと.....な」
「ちょっとって何よ」
「いや、ちょっと」
「だから、ちょっとって何?」
そしてまぁ、こんな言い方してしまったら食い下がらないよな。この女は。
普通に初期対応を間違えた。
でも、ここでうるさくされるよりはもう言った方がいいか。
「ちょっと耳かせよ」
「え? な、なんで」
で、何だその反応.......。まぁいいか。
俺は静かに彼女の耳元に顔を近づけ、簡単に結婚が破談になったことを説明する。
「え? どういうこと? 別れた......?」
「こ、声でかい」
「あ、ご、ごめん」
「でも、まぁそういうことだ。以上。まだ誰にも言うなよ」
で、何だお前らしくないそのポカーンとした表情.......。
どういう時の顔だ?それ。
「え? さすがに嘘だよね。確か高校の時からずっと付き合ってた彼女さんだよね。そ、それに結婚も2週間後だったでしょ? ど、どういうこと?」
「まぁ、色々あってな。本当だ。まずこんな嘘つく意味がないだろ。正式に昨日、破談が決まった」
あれ? さっきよりもポカーンとしてる?
何か想像と違うけど。まぁ、静かだしこれはこれでいいか。
ここぞとばかりにマウントを取ってくるかと思ってたけど。ん?
「じゃあ、まぁそういうことだから」
「え? あ、う、うん」
何だ。こいつにしてはかなり歯切れが悪いな。
と言うか、そういえば昨日の美桜も何か歯切れが悪かったな。
lineとは言え、あいつならなんだかんだで性格的に笑いに消化してくれることを期待していたんだが。
何か普通に慰められた。
しかも、今もちょうどまた美桜からline?
『大丈夫? 辛かったら本当にいつでも相談乗るから。変な気だけは起こしたら駄目だからね。私にできることがあったら遠慮なく何でも言って。修平と私の仲じゃん』
いや、ありがたいのだろうけど、今は優しくされればされるほど逆にちょっと.......。悲しくなると言うか何というか。まぁ、ものすごくありがたいのだが。
何だ。こいつら。何か色々と調子が狂う。
まあ、俺も逆の立場ならこんな感じになるのだろうか?
なるのか?
とりあえず、今日はもう何でもいいか。
うん。いいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます