第61話 聞き間違い?

「決勝戦の勝者はアドル選手!!!」


決勝戦は俺の勝利に終わる。


「ふぅ……何とか勝てたか」


ゾーン・バルターは強かった。


装備でブーストを効かせていた状態にも関わらず、かなりギリギリの勝負を強いられた。

ぶっちゃけ、もうブレイブオーラ使ってしまおうかと思った程だ。

もし使っていれば超絶目立っていただろうから、使わずに済んで本当に良かった。


大歓声が会場内に響く。

そんな中――


「覚悟を……決める時が来たようだな」


微かにそんな言葉が聞こえて来る。

声の主は、武舞台上に倒れているゾーン・バルターだ。


覚悟?

まさか立ち上がって来るのか?


だが立ち上がって来る様子はない。

彼は倒れたまま、再び呟く。


「贄だ……」


今度は贄という不吉な言葉。

ゾーン・バルターは何を言ってるんだろうか?


気になって彼に近寄ろうとしたが――


「さあアドル選手!表彰台へとおあがりください!!」


アナウンスに、表彰台に上がる様に促されてしまう。


まあ気にする程でもないか……


呼ばれて無視するわけにもいかないので、俺はそう結論付けて表彰台へと向かう。


表彰台は武舞台から階段で上がる、貴賓席の前に設置されている。

俺がそこに立つと、貴賓席から護衛を連れた主催のドラクーン王国の国王と、それ以外の国からやって来ている気品達がやって来た。


「アドルよ、見事だったぞ。よもや我が国最強の騎士、ゾーン・バルターをその若さで下すとは。正に天才としか評しようがない。どうだ?わが国で、騎士としてその腕を存分に働かす気はないか?」


「お誘い光栄の極みで御座います、陛下。ですがまだまだ私は若輩の身。見地と研鑽のため世界を回りたいと考えております故、どうかご容赦ください」


俺は片膝を付いてそう丁寧に答える。

ソアラを一人死なせ、ザーン家の様な腐れ貴族のはびこる国に仕える気など更々ない。


まあソアラの事は、魔王と戦える者が彼女しかいなかったから仕方がない事ではあるが。


「そなたなら魔王軍との戦いで、ゾーンと並び活躍してくれると思ったのだが……どうしても気持ちは変わらぬか?」


魔王軍と戦う。

その大義名分の為に国に仕えろと、国王は再度俺に仕官を求めて来た。

その顔は、もしここで断れば『王軍との戦いから逃げた臆病者として』せっかく優勝して得た名声が地に落ちる事になるとでも言いたげだ。


……名誉なんて物は全く求めてないから、正直どうでもいいんだがな。


とは言え、その手の話を一方的に断るつもりもなかった。


「ご安心ください陛下。魔王との戦いに必要とあればこのアドル、協力者として連合に馳せ参じる所存ですので」


連合が魔王軍と対峙する事になったら、協力する旨を俺は伝える。


連合側の勝利は、魔王討伐に有利に働く訳だからな。

当然協力はするさ。

但し、軍に所属するのではなくあくまでも外部からの協力者として、だが。


いいように顎で使われてやるつもりはない。


「む……そうか」


魔王討伐には協力する。

そう返されたのでは、国王もそれ以上は口を噤んだ。


そこからは表彰式だ。

優勝した俺に対した俺に対する美辞麗句と、大会を開催した連合に関する薄ら寒い自画自賛が垂れ流される無駄な時間が続く。


「アドルよ。連合戦技大会優勝者には、優勝賞金とは別に一つ願いをン望む権利が与えられる。最強の称号を得たそなたは連合に何を望む?」


やっと本題が回って来た。

俺はこのためだけに大会に出場したのだ。


「叶うならば、武器を製作できる量のオリハルコンの原石を頂きたく思っております」


そう、オリハルコンを手に入れる為。


「む……オリハルコンの原石か。そなたほどの剛の物ならば、優れた武器を求めるのは当然の事だろう。しかしアレは精製方法が失われて久しい。原石を手に入れても、武器を作る事は叶わぬぞ?」


「存じ上げております。そのための秘術を見つける意味も込めて世界を回ろうと思っておりますので、是非原石を頂ければと考えております」


世界中を周る理由の一つを、精製方法の探索の為と言っておく。

まあブラックスミスのスキルで加工できなかったら、本当にそれを求めて世界中を周る事になるから嘘は言っていない。


「むう、そうか。無茶を承知で挑むと言うのだな。ならば何も言うまい」


俺の願いはあっさり通る。

まあ加工も出来ない原石を抱えて置くメリットはないだろうから、当然ではあるが。


「では用意敷させておくので、後日王宮の方に取りに来るがよいぞ」


「感謝いたします」


「では最後に、優勝したアドル選手に皆さま盛大な拍手を!」


表彰式を締めくくるアナウンスによって、会場重から盛大な拍手が巻き起こる。

俺がチラリと武舞台へと視線をやると、そこにはもうゾーン・バルターの姿はなかった。


自分で立ち上がったのか。

もしくは担架で医務室に運ばれたのかは分からない。


『覚悟を……決める時が来たようだな』

『贄だ……』


ふと、彼の呟いた言葉が脳裏を過った。


贄……か。

ま、たぶん聞き間違いだろう。


不吉な言葉ではあったが、それ自体俺の聞き間違いの可能性が高い。

何せ歓声の中で微かに聞こえた呟き声だったからな。


まあとにかく、これでオリハルコンゲットだ。

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