第62話 剣心一体
翌日、大会の優勝賞品としてオリハルコンの原石を大量に手に入れた俺は早速スキルで工房を展開し、精製できるかの確認を行う。
因みに、展開場所はゼッツさんの屋敷の離れの裏である。
王都に広い場所を確保するのは難しいので、彼に頼んで借りたのだ。
「よし、思った通りだ」
予想通り、スキルの工房はこの世で最も強度のあるオリハルコンの精製が可能だった。
これなら問題なく武器を作る事が出来る。
「じゃあ気合を入れて作るか」
伝説の金属とは言え、製作過程は他の金属系の物と全く同じだ。
俺は慣れた手つきで剣を製作していく。
「完成……と」
完成したオリハルコンの剣をその手に握り、眺める。
武器としての出来は満足のいくものだ。
後はオプションだけだが……
「よし……よし!!」
魔力を流して確認し、思わずガッツポーズする。
武器についていたオプションは、俺が求めていた物だった。
「しっかし、まさか一発でつくとは……ひょっとして俺の運、全部これに吸われたんじゃないだろうな?」
何度も。
いや、何百回何千回と作り直す必要があると思っていた。
何せ確率は一万分の一と聞かされていた訳だからな。
……それがまさか一発で付くとは。
運が尽きてここから不幸の連続にならないだろうなと、不安になってしまう意程の幸運だ。
「ま、普段日ごろの行いが良かったからって思う事にしとこう」
さて、剣についたオプションだが――
神から魔王討伐に必須と言われた物だ。
確率から一番の障害になると思われていた条件だったが、それがあっさりクリアできたのは本当に有難い。
「時間がかなり短縮できたから、その分は皆の武器や防具類の製作に力を入れられるな」
イモ兄妹やエンデは、エリクシル・
その彼らの武器、それに全員の防具やアクセサリー類にも力を入れられれば、全体的な戦力の底上げをする事が出来るだろう。
魔王との戦いは、戦力が高ければ高いほどいい。
「じゃ、次は精錬のオプションだな」
ブラックスミスは武器制作時に付くオプションとは別に、触媒を使って二つ目の効果を付ける事が出来た。
どういった物が付くかは基本ランダムだが、その効果は触媒のランク次第で上下する。
「あれを使うか」
以前王女レアンを暗殺者の襲撃から救った際に貰った神龍石を、俺は袋から取り出す。
王家の至宝であるこれは、触媒としては最高ランクと考えて間違いない。
ともすればエリクサー症候群が発症しそうな貴重な超レアアイテムではあるが、神の提示したスキルの宿った武器に使わなければいったいどこで使うんだという話になる。
ので、俺はこの触媒をオリハルコンの剣に使う。
「頼むから変なの付かないでくれよ」
効果が強くなるとは言え、どうでもいい物が付く可能性も十分ありえた。
せっかく貰った王家の至宝なのに、ゴミに化けたら目も当てられない。
「凄い効果じゃなくていいから、せめて筋力や速度が付きますように」
俺は神龍石を拝んでから、武器の精錬に取り掛かった。
まあ取り掛かるとはいっても、武器の上に置いて槌で叩きつけるだけなんだが。
労力のかかる製作と違って、精錬の方は極極お手軽だ。
手にした槌を武器の上に置いた神龍石に叩きつけると、神龍石は光となって武器の中に吸い込まれていく。
「さて、どんなのが付いたかな」
剣に魔力を流し、俺はその効果を確認する。
「なんだこのスキル?」
精錬で付いたのはスキルだった。
名前は剣心一体。
「効果は剣と肉体、魂を一つとして――ぐっ、なんだ!?」
剣が急に光り出し、握る手に鋭い痛みが走った。
その痛みは急激に全身に広がっていく。
「くそっ……」
咄嗟に手放そうとするが、まるでくっ付いているかのように手から離れない。
「くぅ……なんこりゃ……剣が手の中に……」
やがて剣は、光となって俺の掌の中に吸い込まれていく。
それと同時に、先ほどまで感じていた鋭い痛みがピタッと止まる。
「これは……まさか剣が俺と一つになったのか?」
何となくの感覚で分る。
今の俺が剣と一体になっている事が。
見ると右掌には、剣の形をした紋様が刻まれていた。
「剣を肉体や魂と一つとするって、物理的にかよ」
しかもスキルが勝手に発動したし、本気で意味が分からん。
「まさか体は害はないだろうな?」
念じると、俺の手の中からオリハルコンの剣が出て来る――使い方は感覚で分った。
俺は魔力を剣に流し、再度効果を確認してみる。
「一体化する事で剣の極致に達し、その扱いに神がかり的な補正がかかる。か」
要はマスタリーに付いている、扱い補正の凄い版って事だろう。
まあ悪くはないとは思うが、体や魂と一つになってという部分がどうしても気になってしまうな。
分離の方法が記述されていないから猶更だ。
「まるで呪いの装備だな」
呪われていて外せません的な。
まあデメリットは外せない事だけっぽいから、呪いって事はないだろうが。
「その辺りは考えても仕方がないか。取り敢えず、補正がどの程度か確認してみよう」
軽く剣を振ってみる。
「これは……」
明らかに違う。
まるで自身の体の一部であるような感覚もそうだが、剣を振った感覚がまるで別物だった。
俺はそのまま工房の中で剣を強く振るう。
何度も。
「スゲェな、これ」
自身の剣捌きに、思わず感嘆の言葉を漏らす。
ゾーン・バルターは、とんでもなく高い技量の持ち主だった。
技術面において、俺では絶対に敵わない程に。
だから彼との戦いでは、その卓越した技巧をステータスの暴力でねじ伏せる形で戦かったのだ。
だがこの剣の補正を受けた今の俺なら、ゾーン・バルターと技術面でも並ぶ事が――いや、それどころか圧倒すら出来る様にさえ思える。
「筋力や速度の30%、下手したら50%アップ以上に匹敵するぞ。これ」
この効果、超が付くレベルの大当たりと言って間違いないだろう。
流石は王家の至宝と言わざる得ない。
まあ分離できないのが玉に瑕だが、特に弊害は無さそうなので気にしない事にする。
「ふむ、少しだけオリハルコンが残った訳だが……」
武器屋防具にするには量が少なすぎる。
とは言え腐らせるのもあれなので、この際これでアクセサリーでも作るとしようか。
「世界一贅沢なアクセサリーだな」
そんな事を考えながら、俺は今度はアクセサリーの製作に入るのだった。
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