第58話 ベニイモvsゾーン・バルター
「本気で市民か疑いたくなる様な強さだな……」
準決勝戦第2試合。
ゾーン・バルターとベニイモの戦いを見て、俺は思わず呟く。
ベニイモの強さは、タロイモとほぼ同等と言っていいだろう。
まあ攻撃タイプと防御タイプの違いはあるが、その実力に大きな差はない。
その彼女が、ゾーン・バルターとの戦いで押されまくっていた。
「くっ！」
ベニイモの剣が空を切る。
その際に出来た隙に、反撃の鋭い斬撃が繰り出される。
それを彼女は辛うじて後ろに飛んで躱す。
「エンデの親父さん。とんでもないな」
準々決勝も、ゾーン・バルターの相手は棄権している。
だがこの強さを見れば納得だった。
ベニイモだから戦いになってはいるが、他の相手じゃ瞬殺間違いなしだろう。
これだけの強さが知れ渡っているなら、他の出場者が彼との対戦を避けるのも無理はない。
「はい！父は本当に凄いんです！」
俺の言葉に、エンデが嬉しそうに答えた。
彼女の目標がゾーン・バルターに認められる事からも分る通り、エンデは父親を心の底から尊敬していた。
「はあぁぁぁぁ！！」
追い込まれたベニイモがオーガパワーを発動させる。
筋力・敏捷性・器用さが1,5倍になる瞬間強化だ。
「ぬん！」
能力強化によって、パワーとスピードの上がったベニイモの斬撃。
だがゾーン・バルターはそれを容易く捌いて見せた。
そして素早く反撃する。
「――っ！？」
が、ベニイモは上がった敏捷性を生かしそれを回避する。
特に危なげは無い。
だが彼女のその顔には、驚愕の色が浮かんでいた。
強化した自分の攻撃が容易く捌かれ、反撃が飛んでくる事を想定していなかったからだろう。
「さっきまでは本気じゃなかったって事か」
ベニイモ相手に手加減してたとか、本当にとんでもない市民だ。
その後は一進一退の戦いが続く。
単純な身体能力は強化を使っているベニイモの方が上だが、ゾーン・バルターはそれを技量で完全に抑え込んでいた。
流石に、生涯を剣に捧げて来た人物だけあってその技量はすこぶる高い。
「はぁぁぁぁ！」
オーガパワーの効果切れの間際、ベニイモの剣が光り輝いた。
――スキル【渾身の一撃】だ。
オーガパワーの効果が切れれば、最早戦いにならない事は明白である。
だからベニイモは、一か八かの勝負に出るしかなかったのだ。
狙いは相手の剣。
渾身の一撃は戦士系最強のスキルであるため、その破壊力は絶大。
相手が下手に受ければ、武器を砕くなり、最悪弾く事ぐらいは出来るだろう。
だが、当然そんな浅はかな狙いはゾーン・バルター程の達人には通じない。
流れる様な剣捌きで、ベニイモの賭けを綺麗に受け流す。
「ま、仕方が無いか」
スキルが切れた後も、ベニイモは頑張った。
だが如何せん、地力が違い過ぎる。
結局一撃も加えられないまま、準決勝第2試合はゾーン・バルターの勝利に終わってしまう。
会場中に歓声――ゾーン・バルターコールが響く。
長きに渡って頂点に君臨し続ける男だけあって、その人気は絶大だ。
本来は無力であるはずの市民というのも、その大きな一因だろう。
チラリと横を見ると、エンデも他の観客と一緒になって叫んでいた。
「あ、すいません」
そんな俺の視線に気づいたのか、エンデが謝って来る。
「気にしなくていいさ」
ベニイモとは仲間ではあるが、ゾーン・バルターは彼女の父親だからな。
その勝利を喜ぶのを咎める程、俺も狭量じゃない。
「しかし……厄介だな」
今の戦いを見る感じ、その実力はほぼ俺と互角位と見ていいだろう。
瞬間強化さえ使えればまず負ける事はないのだが、問題はそのスキルが使えないという点だ。
優勝のオリハルコンを絶対に手に入れなければならない以上、敗北は許されない。
最悪、例え悪目立ちする事になってもスキルを使うしかないだろう。
ま……だがあくまでも、それは最後の手段だ。
取り敢えず、使わずに済むよう最善を尽くすとしよう。
差し当たっては装備の変更だ。
ここまでは武器以外、特に有効なオプション付きは装備してこなかったからな。
取り敢えず、決勝戦はステータスアップ系で固めるとしよう。
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