第6話 村祭り
「はぁ……はぁ……死ぬ……」
今日の訓練はいつになくソアラの気合が入っていた。
お陰で死ぬかと思ったぜ。
「じゃあまた後でね!」
俺と違って元気いっぱいの彼女は、そう告げると自分の家にさっさと帰ってしまった。
相変わらずの体力お化けだ。
俺もかなり上がってるんだがな……
レベルは29まで上がっていた。
取得したスキルは――
闘魂マスタリーをレベル9から10へ。
消費SP1。
筋力・耐久・抵抗に5%ボーナス。
弓マスタリーLv10。
必要総SP10。
筋力・器用・気力にレベル×5%のボーナスが付き、更に弓の扱いにも補正。
ウェポンマスタリーLv10。
必要総SP10。
筋力・敏捷・器用・気力・体力にレベル×2%のボーナスが付き、更に武器の扱いに補正。
武王マスタリーLv10まで取得。
必要総SP20。
全ステータスにレベル×2%のボーナスが付き、更に武器の扱いに
――と言った感じである。
ウェポンマスタリーは戦士系の上級クラスのスキルだ。
一般クラスで筋力の上がるマスタリーはほぼ取り終えたので、上級クラスのスキルへとシフトしている。
基本的にSP当たりのステータスボーナスは、高ランクのマスタリー程下がっていく。
筋力があがる一般マスタリーがもっと大量にあればいいのにと思わなくもないが、まあない物ねだりはしてもしょうがない。
武王マスタリーは戦士系の最上級クラスの一つ、武王のマスタリーだ。
全ステータスが上がる事を踏まえても、SPあたりのステータス上昇は上級クラスの物より更に低い。
にも拘らず、他の上級のマスタリーを差し置いてこれを優先してとったのは、武器の扱いにそれまでのものより強い補正が含まれているからだった。
この補正と言うのが馬鹿にならない。
俺はこれにステータス上昇以上の価値があると踏んで、他より武王マスタリーを優先したのだ。
実際、その効果は実感できるレベルの物となっている。
……ま、それでもソアラには手も足も出ずボコボコにされている訳ではあるが。
今の俺のステータスはこうなっている。
【Lv:29】
【クラス:スキルマスター】
【生命力】 59 (+270%)= 218
【気 力】 51 (+290%)= 198
【マ ナ】 30 (+220%)= 96
【筋 力】 49 (+590%)= 338
【体 力】 51 (+290%)= 198
【敏捷性】 48 (+390%)= 235
【器用さ】 46 (+490%)= 271
【魔 力】 30 (+220%)= 96
【知 力】 43 (+220%)= 137
【耐久力】 47 (+320%)= 197
【抵抗力】 31 (+270%)= 114
【精神力】 56 (+220%)= 179
【S P】 1
自分で言うのもなんだが、たった6歳でこのステータスは破格だ。
武器の扱いに三重補正――一つは強い補正――もあるので、村の駐在さんレベルなら多分もう俺の敵じゃないはず。
「アドル。貴方も早く汚れを落として着替えてらっしゃい」
「はーい」
地面に寝っ転がって休憩していると、母親にせっつかされる。
今日は村祭りの日だ。
ソアラがさっさと家に戻ったのも、それに参加する為だった。
この村――ガゼム村には5年に1度の豊穣祭がある。
5年前はまだ1歳だったので参加できなかったが、俺ももう6歳だ。
今年は村祭りには参加する。
……ソアラとその護衛である騎士さん達と一緒に、だが。
できれば両親とだけ一緒に行きたいのだが、うちの家族とソアラの家族は仲がいいので、強制的に俺はソアラ一行と同行する羽目になっている。
騎士と一緒とか、無駄に目立つので勘弁して欲しいのだが……
「お待たせー!」
体を濡れタオルで拭き、着替えた頃にソアラが駆け足で戻って来た。
普段は動きやすい簡素なシャツとズボン姿の彼女だったが、祭りに行くという事で、今はスカートを履いた可愛らしい服装に着替えている。
この格好だけ見ると、完全に普通の美少女だ。
その実、本人はもう護衛の騎士さん達より強かったりするのだから恐ろしい。
「騎士さん達は鎧を着たままなんですね」
「ああ。いついかなる時も、ソアラ様を守るのが我々の役目だからな」
一緒に戻って来た騎士達は、相変わらず鎧を身に着けたままだった。
祭りだから着替えて来るかもという淡い期待も少しあったのだが、無駄だった様だ。
これで死ぬ程悪目立ちするコース確定である。
「おいおいソアラ、急ぎ過ぎだぞ」
少し遅れてソアラの両親がやって来る。
「えへへ。我慢できなくってつい」
そんなに我慢できなかったのなら、一人で勝手に祭りに向かってくれればよかったのに……
等と思いはするが、勿論口にはださない。
この世界では6歳児だが、トータルでは40年以上生きているのだ。
それぐらいの自制はきく。
「それじゃあ、ちょっと早いけど行きましょうか」
家の両親も準備を済ませていたので、早速村の中心の広場へと向かう。
「わぁ!お店がいっぱい!」
広場に付くと、いろんな露店が並んでいた。
それを見て、ソアラが目をキラキラと輝かせる。
普段は俺にとって鬼教官の彼女だが、こういう姿を見ると、年相応の女の子だなと感じさせられた。
因みに、露店を出しているのは基本的に外部からきた行商人達だ。
更に村祭りの準備も、その殆どが彼らの手によって無償で用意されていた。
商人達のそう言った行動は、それが村での商売権と引き換えとなっているためである。
ぶっちゃけこの村、かなり裕福だからな。
ガゼム村は規模としては、200人程度の中規模な村でしかない。
にも拘らず、この辺りでは最も裕福な村となっていた。
それは特産物である、果物のモーモのお陰だ。
モーモはこの近辺でしか作れず、しかも貴族達に人気であったため、高級品としてこの村に多くの富を齎してくれている。
そして商人達は、そのお零れに預かろうとしていた。
何せ周りには大した物がないのに、村人は大金を持っている訳だからな。
そんな場所が、彼らにとって美味しくない訳が無い。
そう言った理由から、村での商売権をちらつかせる村長に、行商人達は良い様に使われているという訳だ。
「お!その子が噂の勇者様か!」
騎士が同行しているので、俺達は目立つ。
此方に気付いた数人が声をかけて来た。
お目当ては当然、勇者であるソアラだ。
ゴリアテさん達は、娘が好奇の目に晒される事を心配している節が強い。
そのせいか、基本的にソアラを他所に連れ出したりと言った行動を今までしてこなかった。
ソアラにも、俺の家に遊びに行く以外は禁じている。
そのせいで、自分と俺の家の往復だけがソアラの行動範囲になってしまっていた。
だからまだ彼女を見た事が無い村人も多い。
「勇者ソアラです!」
そんな親の心配をよそに、彼女は元気いっぱい勇者を名乗る。
まあ子供ながらに魔王を倒そうと息巻いてる訳だからな、他人に気後れする様な姿は彼女には似合わないが。
「はっはっは、元気だなぁ」
「そしてこっちが、私の相棒のアドルです!」
頼んでもないのに、ソアラが俺を大人達に紹介する。
誰が相棒だ。
「相棒?」
その言葉を聞いて、事情を知らない周りの人間が眉根を顰める。
彼らからすれば意味不明だろう。
「初めまして、ただの市民のアドルです。ソアラの言ってる事は戯言なので、気にしないでください」
「えー!私達魔王討伐を誓い合った相棒じゃない!」
そんな誓いを立てた覚えはない。
俺の目標はスローライフだけだ。
それとも俺が知らないだけで、スローライフには魔王討伐が含まれてるのか?
否!
そんな訳がない!
「無茶言うなよ」
「はははは!確かに無茶な話だな!」
俺の冷静な切り返しに、寄って来た大人達が笑う。
そう、これこそが俺の求めていた正常な反応なのだ。
他の村人と他愛ないやり取りをして、一生を過ごす。
それこそが俺の望みである。
ソアラさん。
バイオレンスは他所でお願いします。
「……」
ソアラがジト目で此方を睨みつけて来る。
彼女は勇者なので約束は破れない――と、本人が強く心がけている。
そのため、俺のクラスが本当は神話級に当たるスキルマスターだという事を話せないでいるのだ。
お菓子でつって約束させて本当に良かったぜ。
「明日の訓練……」
ソアラがポツリとこぼす。
恐らく、明日の訓練を楽しみにしてろと言いたいのだろう。
今度は俺が黙り込む番だった。
「……」
世の中理不尽である。
明日の事を考えると、もうとても祭りを楽しむ気にはなれなかった。
ああ……憂鬱だ。
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