第5話 最強の市民

「え!市民のクラスなんですか!?」


現在はソアラとの稽古の休憩中だ。

俺がへばって地面に転がっていると、騎士の一人が俺に話しかけて来た。

「まるで君はゾーン・バルターの再来の様だ」と。


ゾーン・バルター。


それは俺の暮らすファーラス王国最強の騎士の名だそうだ。

そして目の前の騎士は、その男のクラスが市民だと言う。


――市民は非戦闘クラスだ。


レベルアップ時のステータス上昇は最低の1――まあここは俺のスキルマスターも一緒ではあるが。

スキルも、一般マスタリーのみしか習得できない。


一般マスタリーは、最大で全ステータスを99%上げる事が出来るスキルとなっている。

とはいえ、そのためにはレベルカンストまでのSP全てをつぎ込む必要があり、どちらかというと外れスキルに分類されていた。


纏めると。


ステータス上昇は最低。

しかもハズレなマスタリーのみしか習得出来ない。

それが市民クラスである。


言うまでもなく、その戦闘力はとんでもなく低い。

そんなクラスの人間が王国最強だというのだから、それは――


「とんでもなく努力されたって事ですか?」


この世界にはクラスがあり、レベルもある。

だが肉体の強化はそれだけではない。

地球と同じく体は鍛えれば強く逞しくなるし、マスタリーの補正がなくとも、修練で戦闘技術は向上させられる。


「ああ、彼は努力の天才さ」


市民クラスの能力を考えると、ハンデとしてはかなり大きいと言わざるを得ない。

だが努力次第では、その差を克服する事も出来る。

そんな典型的な例となる人物の様だ。


ゾーン・バルターと言う男は。


「幼い頃から剣術に人生を賭けていたゾーン様が、闘術大会で初めて優勝したのは齢40を超えた時だそうだ。それまでの努力が実を結んだ瞬間って奴さ」


技量や努力でステータス差を引っ繰り返すには、40年近い歳月が必要だったのだろう。

折れる事無く努力でそこまで頑張るとか、大した人物である。


けど、同じ市民クラス――偽装しているので騎士はそう思っている――でも、明らかに努力型のゾーンと今の俺とでは全然違うと思うんだが?


現在の俺は5歳にして、レベルは22にまで上がっている。

スキルに関しては槍マスタリーの残りと、新たに4つ程のマスタリーを取得していた。


斧マスタリーLv10

必要総SP10。

筋力・耐久力・生命力にレベル×5%びボーナスが付き、更に斧の扱いに補正。


格闘マスタリーLv10。

必要総SP10。

筋力・器用さ・敏捷性にレベル×5%びボーナスが付き、更に格闘能力に補正。


短剣マスタリーLv10。

必要総SP10。

筋力・器用さ・敏捷性にレベル×5%びボーナスが付き、更に短剣の扱いに補正。


闘魂マスタリーLv9/10。

必要総SP10。

筋力・耐久力・抵抗力にレベル×5%びボーナスが付き、更に苦痛に対する耐性。


ステータスは――


【Lv:22】

【クラス:スキルマスター】


【生命力】 44 (+250%)= 154

【気 力】 34 (+200%)= 102

【マ ナ】 21 (+200%)= 63

【筋 力】 34 (+495%)= 202

【体 力】 36 (+250%)= 126

【敏捷性】 34 (+350%)= 153

【器用さ】 31 (+400%)= 155

【魔 力】 21 (+200%)= 63

【知 力】 30 (+200%)= 90

【耐久力】 32 (+295%)= 126

【抵抗力】 22 (+245%)= 75

【精神力】 40 (+200%)= 120

【S P】 0



――肉体至高の、完全に脳筋寄りである。


これはソアラとの訓練用に、腕力が上がるマスタリーを優先的に取った結果だった。

じゃないと、差が開いて訓練がきつくなっていく一方だからな。

好む好まざると、この形にするしかなかったのだ。


まあ多少ステータスに偏りがあるとは言え、5歳児でこの能力は間違いなく破格。

天才と言ってしまっていいだろう。

そう考えると、遅咲きのゾーンと俺が似てるって事は無いはずだ。


――完全にクラスだけで判断してるっぽいな、目の前の騎士は。


因みにソアラはレベルが30で、ステータスは高い物だともう450付近まで上がっている。

ステータスだけならもう、護衛の騎士さん達並だった。


こっちは筋力ガン振りする形でスキルを取ってるってのに、その筋力すら差が開いてて笑えないぜ、まったく……


とはいえ、ソアラは次の次――レベル32でステータスの上がるマスタリー系を全部取り終えるので、ここからの伸びは緩やかになっていくはず。

逆に俺はまだまだとれるマスタリー系があるので、その差は確実に縮まっていく事だろう。


いつまでも俺の前に居れると思ったら大間違いだぜ!

ソアラ!


……っは!?


いかんいかん。

俺が目指すのはスローライフだ。

勇者のソアラより強くなろうとしてどうするよ。


もう1年以上、毎日毎日訓練に付き合わされてるせいで、おかしな方向に感化されてきてるな。

気を付けねば。


しかし後7年か……先は長いぜ。


「アドル!休憩終了だよ!」


ピンク髪で青目の悪魔が、笑顔で剣を片手で振り回す。

手にしてるのは木ではなく、重量のある重い鉄製だ。

幼い彼女がそれを振り回す姿は、違和感が半端ない。


武器が変わっているのは、お互いの腕力が上がって来たためだ。

もう木だと簡単にへし折れてしまうので、俺も鉄の剣にシフトしている。


「手加減しろよ」


もはやこれは口癖に近い。

俺はゆっくりと立ち上がり、剣を構えた。

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