2-3
「ええと、セレストがドリスに恋愛の講義をするの? そういう感じになっちゃったんだ……?」
「つい、なりゆきで」
自室へ戻らず、パーシバルの部屋を
「我が兄ながら、
パーシバルの膝の上で、白猫のユーフェミアが実の兄を一刀両断した。
「その場で告白して、『俺の女になれよ』くらい言えませんの?」
「無茶言うな!」
セレストは上体を起こして声をあげた。
先ほどの会話ひとつ取っても、ドリスはセレストに対して恋愛感情など毛ほども
性急に想いを告げて
「ちなみに、講義プランはあるの?」
「ない。これから考える」
セレストはきっぱりと言いきった。
「ていうか、恋だの愛だのって、しようと思ってするものじゃないだろ」
視線の先で
「気がついた時には好きになってるんだよ……」
「お兄様……」
ユーフェミアの空色の瞳がきらりと光った。
「聞きまして? パーシー様、今の聞きまして?」
「音声記録すればよかったね。ドリスに聞かせてあげたいよ」
「お前ら! 絶対やめろ!!」
手(前足?)を取り合うユーフェミアとパーシバルに怒りの声をあげた時だった。
ぽんっ!!
シャンパンボトルの
窓の外では、空が紅茶色に染まり、太陽が揺らめきながら地平線へと沈む時分。
「
魔女リプリィによると、ユーフェミアは夜の間だけ人間の姿に戻るという。
「ユフィ、大丈夫か?」
なかなか晴れない煙に向かって呼びかけると、小さな悲鳴があがったように聞こえた。
「どうした!?」
「おっ、お兄様! 今すぐ目を閉じてくださいな!」
「え?」
「いいから早く! わたくしが良いと言うまで開けないでくださいまし! さもなくば呪い殺しますわよ!!」
姿は見えないものの、声音から妹の
「パーシー様も! 見たら首を
「ごめん、もう見ちゃった……」
「いやあああああああっ!!」
パン! と、何かが何かを打つ音が響いた。
いったい、セレストの見えないところで何が起きているのか。
「ユフィ? パーシー? もういいか?」
まるで、かくれんぼの
「よ、よろしくてよ!」
セレストがそっと両目を開けると、白銀色の煙はすでに晴れていた。
そして、先ほどまで白猫の姿をしていたユーフェミアは、豊かに波打つ
ただし、生まれたままの姿で。
顔を真っ赤にして瞳を
上着をはぎ取られたパーシバルは、頰に
る。
二人の姿をまじまじと見て、セレストは「明日からは、日没前に毛布でもかぶせておこうか」とつぶやいた。
◇◆◇
その夜、ドリスはユーフェミアが元の姿に戻ったという
(よかった……って言っていいのかわからないけれど、人間の姿に戻れて安心だわ……)
ユーフェミアに一目会いたくて、自然と早足になってしまう。
「そんなに急がなくても、王女様は逃げないよ」
後ろからついてくるメリンダが
「それはそうなのですが……」
言いかけて、ドリスはふと足を止めた。
(あの方、昼間の……)
中庭でセレストと一緒にいた婚約者候補の女性。たしか、ロベリアと呼ばれていた。
ロベリアが立っているのは、セレストの部屋の前。
(殿下にご用事かしら?)
ドリスは
「お待ちになって」
呼び止められて、ドリスは振り返った。
間近で目にするロベリアは、息をのむほど美しい女性だった。
髪の毛と同じ銀色の睫毛は雪の
ドリスよりも頭半分ほど背が高く、ほっそりとしているが、豊かな
「人違いでしたらごめんなさい。ドリス・ノルマン様……かしら?」
「は、はい」
うなずくと、ロベリアは「ああ、やっぱり」と、両手をぽんと叩いた。
「はじめまして。
「はじめまして……」
覗き見したので知っています……だなんて、絶対に言えない。ドリスは
「魔法師団に知人がおりまして、ドリス様のお話を何度か耳にしたことがありますの」
ロベリアは細い首をかしげて、にっこりと微笑んだ。
「セレスト様とは幼い
「はあ……」
「私はいずれ、セレスト様の妻となる身ですので、今のうちから彼のご友人と親しくなっておきたいのですわ」
(婚約者候補の方と聞いていたけれど、正式な婚約がお決まりになっているのかしら?)
ドリスは疑問を抱きつつも、微笑みを返した。
「こちらこそ、ロベリア様と親しくさせていただけましたら光栄です」
「まあ、うれしい。どうぞよろしくお願いしますね」
ロベリアは、しなやかな手でドリスの手を優しく握った。
「あら? 素敵なブレスレットですこと。どちらの職人の作品かしら?」
「ありがとうございます。こちらは……あの、事情がありまして、王太子殿下からいただいたものです」
「セレスト様から?」
ロベリアの声音がほんの少し低くなったことに、ドリスは気づかなかった。
「そう……素敵ですこと」
ドリスの右手首を
「あの、殿下にご用事だったのでは?」
「今はいらっしゃらないようなの。時間をあらためることにいたしますわ。ごきげんよう」
ドレスの裾をひるがえして、ロベリアは細い
(綺麗な方……。優雅で、気品にあふれていらして……なんだか緊張してしまったわ)
ドリスが胸に手を当てて、美しい後ろ姿に
ひらに
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