シーン7-3/決戦、クマモノ

★後攻陣営のメインプロセス/1ラウンド目



 ようやく回ってきた俺達の行動順。しかし、1ラウンドの間に3人の前衛を倒された自陣にはお通夜ムードが漂っていた。


「これ……勝てる……?」

「わからない。わからないが……少なくとも、まだ負けてない!」


 震え声で問いかけるディーチェに、声を張り上げて応じる。状況は極めて不利だ。しかしここで心を折ってしまっては、勝負ゲームを捨てるのと同じだ。

 1人のTRPGユーザーとして、捨てゲーだけは絶対に認められない。諦めずに足掻き続けた先にこそ、最高の結末ゴールが待っている。俺はそんな冒険セッションを、何度だって追い求めてきた人種なのだから。


「ディーチェ、作戦変更だ。とにかく火力を出して、短期決戦で削り切る。作戦名は――やられる前にやれ、だ!」

「おお、ゼノが燃えてる……了解よ! 私は何をすればいいの?」

「このラウンドは陣術で支援して、俺の攻撃の命中を安定させてくれ。その後は俺が全力で攻撃してダメージを稼ぐ。

 次のラウンドは防御魔法に【革命力】を注ぎ込んででも、とにかく生き残って手番を得て、殴る。【革命力】が残ってるなら、それも使って殴る。この2ラウンドで勝負が決まると思ってくれ」

「わかったわ。それじゃあ、まずは私から動くわね!」


 錫杖を掲げ、陣術を行使すべくスキルを発動するディーチェ。これで俺の全力攻撃を確実に命中させ、クマモノの【HP】を大きく削れれば御の字だ。


【魔法行動力】判定/難易度:0

 ディーチェ:【魔法行動力】+2D6 → 【MP】不足 → 失敗


 プスン、という間抜けな音と共に、ディーチェの足元に展開しかけていた魔法陣が霧散した。


「あれ? 【MP】不足って……え、マジ?」

「いやいや、なんでだよ!? ちょっと練技と防御魔法を使ったくらいで、魔法職の【MP】が切れるわけ――あ゛」


 ふと思い出されるのは、ドルフ村の畑仕事を手伝うディーチェの姿。

 畑の全域に魔法陣を展開して……そういえば、俺が声をかける前から繰り返し陣術を使っていた様子だった。

 ドミニオンの陣術は、効果範囲を拡大すると【MP】を追加で消費する。つまり、ディーチェが【MP】切れを起こしたのは――。


「畑仕事で何回も陣術使った後……【MP】回復した……?」

「…………」

「…………」

「……てへっ?」

「マジかお前――!!!???」

「わあああああ! ごめーん!? 色々ありすぎて忘れてたのよぉ!」


 前衛は3人も倒れ、支援魔法職は【MP】不足で仕事が不可能。これは……流石に、これは……。


「ゼノぉ……これ、勝てる……?」

「……う、うぉおおお――ッ!!!」

「叫びながら突撃していった! でもそれって苦し紛れとかヤケクソって言うんじゃないかしら!? ちょっとゼノ、ゼノさ――ん!?」


 うるせぇ! 殴って削りきれば敵は倒せるんだよ!

 万策尽き、あまりに身も蓋もない思考で刀を振りかぶりつつ、攻撃に使えるスキルを全て発動。頭上で景気よく回転するダイスロールは俺の内心など知らんとばかりに高い出目を叩き出し、クマモノへの命中が確定する。


「やってやる……やってやるよ!」


 虎の子の【革命力】まで全て注ぎ込み、ダメージロールのダイス数を増加させる。

 文字通り、今のゼノに可能な全力の一撃。果たしてその結果は――。


ダメージロール

 ゼノ:【物理攻撃力】+11D6 → 8+18[出目1、1、1、1、1、1、2、2、2、2、4] → 物理ダメージ:26


【HP】計算

 クマモノ:【HP】70/70 → 【HP】49/70


「うわぁ、酷い出目……」

「……泣いていいか?」


 期待値を大幅に下回る悲惨なダメージロールは物理防御力に阻まれ、敵の【HP】をそれなりに削る程度に留まった。

 俺の行動は終わり……そしてこれは、俺達の旅も終わったかもしれない。



★クリンナッププロセス/1ラウンド目


 ラウンド処理続行

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