シーン6-1/山賊団、再び
爆発による撹乱と山賊団の先導を頼りに、俺達はどうにかクマの魔物からの逃走に成功した。
現在は山賊団がねぐらにしているという山中の洞窟に案内され、休息と傷の手当てを済ませているところだ。
「へっへっへ、洗って縛ってポーション飲んでの応急処置に過ぎねぇが、何もせずに放っておくと命に関わる可能性もあるからな……ま、取り敢えずの手当てとしちゃあこんなもんだろう」
「いってて……ありがとう、助かるよ」
「へっへっへ……べ、別に兄ちゃんのために手当てしてやったんじゃねぇからよ……か、勘違いすんなよな!」
……ヒゲヅラ山賊のツンデレ、果たして需要はあるのだろうか。
そんな失礼な思考を頭の隅に追いやり、改めて洞窟の面々を見回す。
どうしてドルフ村のクルトが山にいるのか。なんとなく想像は付いているが、本人に確認しないわけにはいかない。どう切り出すか迷う俺に先んじて、口を開いたのは山賊団の頭だった。
「ヘッヘッヘ……ところでよぉ。なんでお前ら、クマモノに襲われてたんだ?」
「く、クマモノ……?」
「ヒッヒッヒ! クマの魔物でクマモノとは、流石だぜお頭ぁ」
「フッフッフ! 名付け上手のお頭さんだもんなぁ」
「ヘッヘッヘ……よせやい、照れるじゃねぇか」
いや仲良しかよチュートリアル山賊団。ともあれ、質問には答えておいた方がいいだろう。仮にも命の恩人だ。
TRPGにおいて既に判明している情報を共有する時、実に役立つ言葉がある。このアーレアルスでも有効だといいのだが。
「実は……"かくかくしかじか"なんだ」
「いやいやゼノ。それじゃ何も伝わらないんじゃ――」
「ヘッヘッヘ、なるほどねぇ。腰をやったお婆さんの治療に薬草が必要だってんで、群生地に採取に来た。ところが森でクマモノに襲われる坊主の声が聞こえて、泡を食って駆けつけたってぇ話なわけかい」
「ヒッヒッヒ。腰をやっちまうとは気の毒なお婆さんだぜぇ」
「フッフッフ。早く元気になってくれるといいんだけどよぉ」
「えぇ……? 今ので伝わっちゃうの……?」
便利だな"かくかくしかじか"。伝えたい情報が一瞬で共有できた。これもTRPG世界ならではという事か。
「そういうわけで、クマの魔物――クマモノに襲われて大ピンチだったんだ。本当に助かった。ありがとう」
「そうね。ありがとうチュートリアル山賊団」
「ヘッヘッヘ、いいって事よ」
山賊団に頭を下げて礼を述べた後、洞窟の隅で居心地が悪そうにしているクルトに向き直る。
「さて……クルト。なんで俺達に付いてきたのか説明してくれるな?」
「……村の集会所にお婆さんが運ばれたって聞いて様子を見に行った時、ディーチェの姉ちゃんの声が聞こえたんだ。"採取依頼は冒険者にとって基本中の基本"だって。
だからその……俺だって役に立つんだってところを見せれば、2人の気も変わるかもしれないって」
「……黙って付いてきて、事後承諾で採取を手伝ってから、なし崩し的に王都までの旅に加わろうとした。だな?」
「ご、ごめんよ……」
どうしたものか考える。クルトの行動は明らかに浅はかで無謀なものだ。
おかげで彼はクマモノに襲われ、助けに入った俺も負傷している。
「ヘッヘッヘ、そういう事かい。そちらさんにも色々と事情があるだろうが、説教は後回しにしてもらおうか。問題はクマモノにどう立ち向かうかってぇ話よ」
「いやいや待ってよ、わざわざ立ち向かう必要ないでしょ? クマモノからは逃げ切ったんだし」
「ヒッヒッヒ……美人の姉ちゃん、野生動物をナメたらいけないぜぇ」
「フッフッフ……奴らは鼻がいいからよぉ」
「ヘッヘッヘ。そういう事さ。今は撹乱の爆発にスパイスの粉末を混ぜて鼻を潰したから追ってこないだけだ。
時間が経てば、そのうち俺達の臭いを辿ってここまで来るだろうぜ。洞窟から出て村に行くにせよ、臭いが消えない限りは獲物を追ってくる。
つまり……このままじゃ俺達は、遅かれ早かれクマモノに追いつかれちまうってぇわけさ」
山賊団の頭の説明を聞いて、ようやく俺にも事態が飲み込めた。クマモノの問題を解決する前に村に戻る事は難しい。ドルフ村まで臭いを辿られてしまえば、村が襲撃される事態になりかねないからだ。
一方、山賊団の面々もクマモノに襲われたくはないはず。つまり、俺達が取るべき行動は。
「お頭さん。クマモノに立ち向かうなら、戦力は多い方がいいと思う。俺達と一緒に戦ってくれないか」
「ヘッヘッヘ……同感だ。ここは俺達で手を組んで、なんとしてもクマモノを仕留めなきゃならん。力を貸すぜ」
「ありがとう。頼もしいよ、お頭さん」
お互いに右手を差し出し、固い握手を交わす。今ここに、チュートリアルゼノディーチェ同盟が結成されたのだ。
……名前長いな。
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