シーン2-2/成長

「私のクラスは"サポーターLv4/ドミニオンLv1/エンハンサーLv1/アサシンLv2"。

 能力値は【感覚】が高め、【幸運】が超高め。後衛から陣術で味方を支援する最強無敵に頼もしい女神様よ」


 最強無敵の女神様、さっき鞭でしばかれてめっちゃ泣いてたけど。いやそんな事はどうでもいい。問題は彼女のクラス構成だ。

 エンハンサーとアサシン。どちらも戦闘向きのサブクラスで、自分で直接戦わないドミニオンとの相性は、正直に言ってあまり良くないような……。


「えーと……珍しいクラス構成だね? エンハンサーはまあ、戦闘で実際に使ってたからわからなくもないけど……アサシンは一体どこに……?」

「大丈夫よ、ちゃーんと考えてるわ。アサシンは――ずばり、クリティカル発生時のボーナス狙いよ!」


 勢いよく指を突き付けてくるディーチェと、思わず押し黙る俺。2人の間に、数秒間の沈黙が流れる。


「……クリティカルのボーナス。あー……」


 アサシンにはクリティカルの発生が使用条件に設定された強力なスキルが存在している。つまりディーチェは、確率3%にも満たない2D6での6ゾロを当て込んでクラスを選択したらしい。


「なる、ほど……そういうコンセプトかぁ……」

「うん!」


 俺の脳裏を過ぎった「ネタビルド」の5文字。流石にその評価は失礼だと思い直し、ディーチェのビルドの利点を必死に考える。


「……そうだね。サポーターで出目を操作するスキルを取れば、ビルドのコンセプトに近い活躍もできるかな……たぶん……」

「あ、ごめん。先に言っておくべきだったわ。私、出目操作スキルは絶対に取らないのと、【革命力】で判定の振り直しもしないから。よろしく!」

「…………」


 絶句しながらディーチェの言葉を反芻はんすうする。どうやら聞き間違いではなさそうだ。マジか。


「クリティカル狙いのビルドで、出目を操作しない……?」

「ちょっとちょっと、私が誰だか忘れたのかしら」

「ファンブル芸人だろ?」

「違うわよ! ダイスの女神よ! つまり私は、ありのままの出目が導いた波乱万丈な運命を愛する存在なわけ。

 そんな私が、出目を操作して運命を捻じ曲げる? いやいや、ないない!」

「お、おう……」


 ディーチェの断固たる様子に問答は無駄だと悟り、思わず内心で溜め息を零す。

 女神としての在り方がそうだと言う以上、説得してどうなるものでもないだろう。まして初心者にビルド方針の無理強いなど論外だ。

 ……まあ、本人が楽しそうだから、それでOK……という事にしておこう。考えても仕方ないのだ。既にディーチェは今回の成長を終わらせているのだから。

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