シーン2-3/成長

「ところで、ゼノは成長でどんなスキルを取ったの?

 ちなみに私はサポーターから《バリアコート》のスキルLv上昇。

 アサシンではクリティカル発生時に【革命力】が増える《天命解放》のスキルLvを上げてあるわ」


 ドミニオンを成長させて支援を強化するのではなく、アサシンを優先的に伸ばしている……どうやら本気でクリティカル発生に希望を託すビルドで行くつもりらしい。


「……ああ、うん。成長で取ったスキルね。それも情報共有しとくか。

 アタッカーは範囲攻撃《ワイドアタック》のLvを上げて、1回の戦闘で使える回数を増やした。

 サムライの方は、新しく《心眼》を取得した。命中判定を振り直すスキルだ。

 まあ、ぶっちゃけ成長としては一択だったし、特に悩む事もなかったよ」


 そう告げる俺に、ディーチェは首を傾げながら尋ねてくる。


「一択なの? どうして?」

「俺はパーティーで唯一のアタッカー、つまり敵の【HP】を削るのが主な役割だ。攻撃を確実に命中させつつ、複数の敵にも対応できるように――」

「あ、ええとね。理屈はわかるのよ。そうするのが合理的なんでしょ?

 でも、それだけで選択肢を狭めるのって、なんか勿体なくない? せっかく自由に成長できるんだから、自分の好きな能力やスキルを伸ばしたっていいと思うの」

「……まあ、そういう考え方もあるとは思う。ただ俺の場合は、TRPGを遊ぶ過程で染み付いた癖みたいなものだからな……」


 TRPGは自由度の高い遊びだ。プレイグループによって楽しみ方やセッション中の雰囲気も大きく異なる。

 俺がよく一緒にTRPGを遊んでいたグループの方向性は――端的に言うなら、苛烈だった。

 ダンジョンには危険なトラップが多数設置され、敵は極めて強力かつ最適化された行動でPCを仕留めようと襲いかかり、判定も全体的に難易度高め……まあとにかく、色々と真剣に対策しなければPCが死亡ロストするかもしれないゲームバランスで遊んでいた。

 例えば先ほどの山賊団との戦闘。もしこれが生前のプレイグループだったら、まず敵の能力値や攻撃力が底上げされ、その上で唯一の攻撃役である俺が袋叩きに遭っていたはずだ。攻撃役さえ倒してしまえば、敵にダメージが入る事はない。そうなれば後衛のディーチェを倒して戦闘終了だ。

 もちろん、そういう遊び方を否定するつもりはない。実際に俺もそんな殺伐とした真剣勝負の雰囲気を受け入れて遊んでいたのだし。

 ともあれ、そんな環境で遊んできた俺は、合理性を突き詰め最適解を求めてPCを作って成長させるようになっていった……というわけだ。


「染み付いた癖、ね……まあゼノの成長だし、後悔のないよう好きに決めればいいんじゃない?」

「……そうだな」


 屈託のない笑顔を向けてくるディーチェに、どこか後ろめたく、バツが悪いような感覚を覚える。気を取り直し、あるいは自分で自分を誤魔化すように、俺は腰掛けていた岩から勢いよく立ち上がった。


「……よし。ビルドの確認と成長も済んだし、そろそろ移動するぞ。

 山賊団の地図と情報によると、少し離れた辺りに村があるらしい。今日はそこまで歩いて、一泊させてもらえないかお願いしてみよう」

「あら、近くに村があるのはラッキーね」


 岩の上から飛び跳ねるように降り立ち、颯爽さっそうと歩き始めるディーチェ。赤い両目をやる気と期待感に輝かせる彼女は、急かすように手を振ってくる。


「さあ、ゼノ! いよいよ最初の村に向けて出発よー!」


 そんな彼女に、苦笑を浮かべつつ一歩を踏み出す。


「ディーチェ、そっちは逆方向だぞー」

「えっ。あ、待って待ってー!」


 慌てて引き返してくるせっかちな女神の声を背中に受けながら、俺は近場の村への正しい道を歩き始めるのだった。

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