シーン1-8/チュートリアル

「ヒッヒッヒ……なんだよ、初めての戦闘だったのかぁ?」

「フッフッフ……初戦闘で初勝利ってわけだ」

「ヘッヘッヘ……なんだよ、めでてぇじゃねぇか。それじゃあ、最初の敵として責任持って色々と教えておいてやらないとなぁ。

 戦闘はお前らの勝ち。ラウンド処理も終わりだが、儀式はまだ終わっちゃいない。戦闘に勝った側は、負けた側からいくらかのアイテムと、"経験点"って呼ばれる強くなるための力を手に入れられるのさぁ。

 経験点がどういうものなのかは諸説あるらしいが、戦闘とかで打ち負かした運命の一部を自分の力に変えてるって話が有力なんだとよぉ」


 ガタッ!


「……どうしたのよゼノ。急に前のめりになって」

「いや……経験点を貰えるって思ったら、ちょっとゲーマーの血が騒いで……経験点で成長するのは、TRPGの大きな楽しみの1つだからさ」

「ヘッヘッヘ……てぃーあーるぴーじー? 戦闘中もクリティカルとか聞き慣れない言葉を使ってたが……どっか他所の国の表現か?」

「あー……うん。まあそんなところかな」


 この反応……つまり山賊団には判定やダメージのダイスロールが見えていなかったという事になる。おそらくだが、あのダイスはブレイズ&マジックのルールを知っている者、俺やディーチェにしか認識できないのだろう。


「ヒッヒッヒ……なるほどねぇ。遠くからご苦労さんなこった」

「フッフッフ……それじゃ、儀式を終わらせにかかるとするかぁ」

「ヘッヘッヘ……お手柔らかに頼むぜぇ……」

「さっき言ってた、負けた側からアイテムを手に入れられるって話だな……よし、ディーチェは山賊団の頭の持ち物を担当してくれ。俺は手下の持ち物をやる」

「わかったわ。おらー! 金目の物を寄越しなさーい!」


 山賊団の頭に身も蓋もない要求を突き付けるディーチェの頭上で、2D6のダイスロールが行なわれる。


アイテムドロップ/対象:山賊団の頭

 ディーチェ:2D6 → 11[出目5、6] → 斥候の革鎧×1


 おお、出目が良い。少しかさばるものの、売れば相応の値段になるだろう。

 山賊団の頭が装備していた革鎧が消滅し、ディーチェの眼前に新品の状態となって出現した。戦利品を手にしてガッツポーズを決めるディーチェを横目に、俺も山賊団の手下に意識を向け、アイテムドロップのダイスロールを発生させる。

 戦闘によるアイテムドロップは、基本2D6のダイスロールに結果が左右され、出目が高ければそれだけ良いアイテムを入手できる可能性が高くなる。

 俺の頭上で、2D6のダイスロールが2回振られた。さて、気になるアイテムドロップの結果は――。


アイテムドロップ/対象:山賊団の手下A、B

 ディーチェ:2D6 → 9[出目3、6] → HPポーション×1

 ディーチェ:2D6 → 8[出目3、5] → HPポーション×1


「お、回復アイテムか。俺達の【HP】も減ってるし、これは助かるな」


 そんな事を考えつつ、手に入れた回復薬ポーションをディーチェに差し入れしておく。

 その後、道端の岩に腰掛けたディーチェがポーションを飲み干す間に、俺は無力化した山賊団から周辺地図と近場の村の情報を聞き出す事に成功した。

 一通りの情報収集を終えたところで、山賊団の面々が口を開く。


「ヒッヒッヒ……これで本当に儀式はおしまいさぁ」

「フッフッフ……傷の手当てはしっかりしておくんだぜ」

「ヘッヘッヘ……それじゃあ、ずらかるぜ野郎ども!

 見事な初勝利だった! 俺達の事は忘れてもいいが、教えた事は覚えておきな! あばよーぅ!」


 意外にも親切な捨て台詞と同時に、油断していた俺と山賊団の間で小規模な爆発が発生する。巻き上がる炎と煙が晴れた時、既に彼らの姿はそこになく――いや、少し離れたところをドタドタと走り去っていく背中が見えてるな。


「……最後まで締まらない奴らだったな……」

「そうね……でも悪い奴らじゃ――いや山賊は悪い奴よね。何言ってるんだろ私。

 それはそうと、色々と情報も聞けたみたいね。経験点も手に入った事だし、成長を済ませて今後の方針を相談しておきましょ」

「ああ。でも、山賊を倒した程度でレベルアップ可能なだけの経験点が貰えたとは――えっ?」


 脳内で自身のキャラクターシートを確認して、思わず驚嘆の声が出る。山賊団から得られた経験点は、彼らより格上の俺達がレベルアップするのに十分な量だった。


「うっそ、こんなに貰っちゃっていいのかしら!? サンキュー山賊団、いい奴らだったわね!」

「ああ!」


 報酬によって態度を変える現金なゲーマー根性を発揮しながら、俺とディーチェはいそいそと自分PCの成長処理を開始するのだった。

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