シーン1-7/チュートリアル

★後攻陣営のメインプロセス



「ふふ、ふふふ……遂に私達の行動順がやってきたようね……」


 叫び疲れ、やつれた表情でゆらりと錫杖を持ち上げるディーチェ。


「ゼノ、まずは私から動くから。いいわよね?」

「お、おう……」


 鬼気迫る声音に、反射で頷いてから考える。結局、ディーチェのキャラクター性能はどうなっているのだろうか?

 現在確認できているディーチェのクラス構成は、メインクラスがサポーター、サブクラスがエンハンサー。

 正直あまり相性の良い組み合わせではないと思うのだが……いや、他にサブクラスを取得している可能性は十分にある。まずはディーチェの出方を見て、経験者の俺が合わせていけばいい。


「ふふ、うふふ……敏腕サポーターたる私の、真の力をみせてあげるんだから!

 スキル発動、《レッドキャスト:テクニック》! これで私とゼノを大幅パワーアップよ!」


 ディーチェが錫杖を掲げると同時、その頭上で【魔法行動力】判定のダイスロールが発生し、彼女は判定に成功した。

 その足元に赤く輝く魔法陣が浮かび上がり、戦場へと広がっていく。陣術じんじゅつと呼ばれる魔法陣を展開し、範囲内の対象に支援や妨害を行なうスキル。サブクラス"陣術使いドミニオン"のものだ。

 ドミニオンのスキルは使用コストとなるMPの消費こそ大きいが、強力な効果で戦場を支配し、戦局を大きく左右する。例えば《レッドキャスト:テクニック》のスキルであれば、俺の攻撃の成否に関わる【物理行動力】判定の達成値にプラス修正を得ることができる。


「さあ、ゼノさん! やぁっておしまいなさい!」

「助さん格さんみたいに言うな! けど、これなら!」


 陣術による支援を受け、身体に力がみなぎる。ディーチェの言葉に背中を押され、俺は刀を握り直して山賊団に相対した。


「はぁぁぁ……!」


 マイナーのスキル《三景さんけいの型》を発動して刀を構え、自身に「月の剣閃」を付与する。

 立て続けに、付与された「剣閃」の数だけ威力が増加するメジャーのスキル《三景の太刀》と、複数体を攻撃するスキル《ワイドアタック》を発動。一気呵成いっきかせいに攻めかかる。


「ヒッヒッヒ! たった1人の攻撃役で!」

「フッフッフ! 一体何ができるってんだぁ?」

「ヘッヘッヘ! そうだぜ、範囲攻撃ってんならまだしも――あれこれ範囲攻撃? やっべ、野郎ども全力で避けろぉ!」

「逃がすかぁぁぁ!」


 頭上で跳ねる【物理行動力】判定のダイスロール。クリティカルこそしなかったが2D6で合計10の出目を叩き出し、ディーチェの陣術も重なっての達成値は山賊団の【防御行動力】判定を物ともせず全員に攻撃を命中させる。


ゼノ/ダメージロール

 【物理攻撃力】+9D6 → 8+34[出目1、2、3、3、4、4、5、6、6] → 物理ダメージ:42


 早期決着を狙って、自前のダメージロール大幅増加スキル《バーストフォース》を重ねた一撃。1シーン(ブレイズ&マジックのセッションで扱われる物語シナリオにおける場面の単位。戦闘によるラウンド処理は1シーンとして扱われるのが通例)に1回しか使えない大技だが、ここが切り時だ。


【HP】計算

 山賊団の頭:【HP】35/35 → 【HP】0/35

 山賊団の手下A:【HP】30/30 → 【HP】0/30

 山賊団の手下B:【HP】30/30 → 【HP】0/30


「ヒッヒッヒ……ぐわぁぁぁ!」

「フッフッフ……どわあぁぁ!」

「ヘッヘッヘ……ほぎゃぁぁぁ!」


 三者三様の叫び声を耳に、敵陣を駆け抜け峰打ちで山賊団を叩き伏せる。靴底から砂煙を上げつつ動きを止めた時、無事で立っている敵はいなくなっていた。

 まずありえないとは思いつつ、敵が戦闘不能状態から回復するスキルを使わないかと警戒していると――。


「ヘッヘッヘ……やるじゃねぇか兄ちゃん……そっちの姉ちゃんも。戦闘は……俺達の負けだ。運命を押し通したのは、お前らの方みたいだぜ……」


 山賊団の頭からの敗北宣言。つまり、この戦闘は。


「わぁ……! やったわねゼノ! 完璧な初戦闘だったんじゃないかしら!」


 嬉しそうに叫び、その場で飛び跳ねるディーチェ。

 そんな彼女の様子に、ようやく勝利の実感が追いついてきた。緊張を解き、刀を鞘に収め……大きく息を吐き出してから、俺もその喜びを口にした。


「っはぁぁぁ……やった、勝った……!」

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