シーン1-6/チュートリアル

★先攻陣営のメインプロセス



「ヘッヘッヘ! まずは頭が動いて手本を見せないとなぁ? メインプロセス行くぜぇ!」


 野太い掛け声に合わせ、山賊団の頭が俺に左手の短剣を向けてくる。同じエリアにいるため、ムーブアクションでの移動はないようだ。

 となれば、問題はこの後に続くマイナーとメジャーのアクション。何かスキルを使って攻撃してくる可能性が高いが、果たして――。


「ヘッヘッヘ! 俺の短剣を食らいなぁ!」


 山賊団の頭の手先で、器用に短剣が回転する。陽光を反射しての派手な動きに、俺の視線はいつの間にか左手に吸い寄せられ、そして。


「うおっ!? しまった――!」


 直後、敵の左手から右手に短剣が投げ渡された。左手に誘導されていた俺の視線はその動きに追いつかず、至近距離で見事に虚を突かれた形だ。

 隙を見逃さず閃く山賊の短剣。その頭上に、2D6のダイスロールが跳ねる。

 【物理行動力】を参照しての判定、敵の達成値は12。対する俺は【防御行動力】を参照した判定で12以上の達成値を出さなければ、防御も回避もできず攻撃を受ける事になる。

 ゼノの【防御行動力】は2と低め。出目で10以上が求められるわけだが、ここはダイス目の可能性に賭けて刀での防御を試みる――!


【防御行動力】判定/難易度:12

 ゼノ:【防御行動力】+2D6-2 → 2+5[出目1、4]-2 → 達成値:5 → 失敗


 ……出目、酷くない? しかも達成値にマイナス修正が適用されている。先ほどのナイフトリックの影響か。おそらくは、攻撃対象の【防御行動力】判定を妨害する《フェイント》のスキルだったのだろう。

 そんな思考も虚しく、俺は迫る凶刃の切っ先を見ていることしかできなかった。


「ヘッヘッヘ、まずは一撃ぃい!」


 攻撃の命中が確定し、敵の頭上に再びのダイスロール。ダメージを決定するためのダメージロールだろう。

 敵の物理ダメージから俺の物理防御力を引いた10点の数値が、HPダメージとなって襲いかかる。


【HP】計算

 ゼノ:【HP】49/49 → 【HP】39/49


 直撃。短剣が容赦なく俺の肩口を切り裂き、空中に赤い飛沫しぶきの弧を描いた。流石に防御魔法などの支援もなしでは、受けるダメージもそれなりに大きい。

 とはいえ、生前の交通事故と比べれば痛みの程度など知れている。走る痛みに顔をしかめつつ、刀を振って山賊団の頭と距離を取った俺の耳に届いたのは、ディーチェの心配と謝罪の声だった。


「ゼノ、大丈夫!? ごめん、《バリアコート》のスキル使えばよかった!」

「いや持ってるのかよ防御魔法! 普通に痛いから次は頼むね!?」

「ヘッヘッヘ、大丈夫かよ兄ちゃん。後できちんと手当てしときな」

「攻撃するか心配するか、どっちかにしてくれ……」


 意外な気遣いを貰って逆にげんなりする俺の前で、山賊団の手下Aが鞭を構えて声を張り上げる。


「ヒッヒッヒ! 次は俺の順番だな! リクエストにお応えして攻撃行くぜ!」

「リクエストしてねぇ!」


 ツッコミに重なるように鞭が振るわれ、ダイスが躍る。敵の達成値は10。一方で、攻撃対象となった俺の達成値も10だった。判定達成値が同値となった場合は、判定を仕掛けられた側("受動側")が対決に勝利する事となる("受動有利"と呼ばれる)。

 つまり、今の場合は――。


「うお、あっぶねぇ!」


咄嗟に反らした上半身。俺の鼻先ギリギリを鞭の先端が掠めるように通過する。


「ヒッヒッヒ……」

「ナイスよゼノ! 相手も笑い声だけでしょんぼりしてるわ!」

「フッフッフ。こうなりゃ俺がリベンジしてやる! 姉ちゃん、自分だけ狙われないと思うなよぉ!」

「げっ、今度は私狙いなの!?」


 ダイスロールと共に唸りを上げる鞭。山賊団の手下Bは判定でクリティカルを叩き出していた。


「ちょっと!? クリティカルとか絶対痛いやつじゃないのよ! こうなったら私もクリティカルで回避してやるんだから――!」


【防御行動力】判定/難易度:クリティカル

 ディーチェ:【防御行動力】+2D6 → 2+2[出目1、1] → 大失敗ファンブル


「あっ……」

「いやぁぁぁ!? 助けて《バリアコート》――!」


 ディーチェの全身を、"サポーター"のメインクラスで取得可能な防御魔法の障壁が包む。なお攻撃でクリティカルが発生した場合、ダメージロールのダイスが増える。守りきれるか……?

 パリン! スパァァァン!

 果たして、高らかに響くのは、鞭が障壁を破壊してディーチェを打ちのめす音。


【HP】計算

 ディーチェ:【HP】37/37 → 【HP】19/37


「ぎぃぃぃやぁぁぁ!!! いっっったぁぁぁあああ!?」

「うっわ、一気に半分近く持ってかれたか……めっちゃ痛そう……」


 滝のような涙を流しながら被弾した左腕を押さえて叫ぶディーチェ。

 後衛が防御に難ありなのは、TRPGに限らずファンタジー系ゲームの常だな……。


「ぐすっ、ひぐっ……嘘でしょ……こんなに痛いの……聞いてないんですけど……」


 叫び疲れて力なく呻く彼女を気の毒に思いつつ、俺はある仮説を立てていた。

 おそらくこの世界アーレアルスでは、攻撃を受ける時点での【HP】が高い方がダメージに強くなる……同じ攻撃でも苦痛に感じる程度が少なくなるのではないか。

 一連の攻撃を例にすると、俺が【HP】を2割ほど削られても泣き叫ぶまで至らなかった一方、ディーチェは【HP】を半分ほど削られ滂沱ぼうだの涙で絶叫していた。

 つまり、現在の【HP】に対して割合でどれだけのダメージを受けたかが、被弾時の痛みの強弱に繋がっているのかもしれない。

 回復はこまめにしよう、痛いの嫌だし……と結論付け、戦闘に意識を向け直す。

 山賊団の行動――先攻陣営のメインプロセスが終了したという事は、次は――。



★後攻陣営のメインプロセス

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