第31話

「―――善波様、お車の方の手配が整いました」


「おお、そうか」


応接室の入り口から、善波が征四郎たちの方に


振り返る


「おい! 出発だ!」


「ようやくネ―――、」


「時間がかかったな...」


「ガタ」


ジャンと征四郎が椅子から立ち上がり、


扉の前に立っている善波の元へ向かって歩く


「―――さっき言ってた"系図"ってのは


 まだ来てないのか?」


「そろそろ来ると思うんだが....」


「・・・まあいい、とりあえず、


 今日は藤道の桔梗(ききょう)会の方に


 行ってみよう」


「ああ、九州とかに本社がある藤道物流の...」


「そうだ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「....しかし、雅もアレだな?」


「ブロロロロロロロロ...」


善波が、ハンドルを握りながら声を上げる


「・・・ミヤビも、


 "ミダイ"


 にナリタイみたいネ?」


昼下がりの晴れ空の下(もと)、


征四郎 ジャン、善波の三人を乗せた軽自動車は


広々とした叶生野荘の長い、まっすぐな道を


走って行く


「雅のヤツ―――」


"善波兄さんには車を貸せない"


叶生野の人間が買い出しから戻ってくるのを


待っている間、征四郎たちのいる応接室に


叶生野家の次女である雅が食事を取るために


訪れたが、その雅に車を借りようとすると


雅はまるで周りを寄せ付けない様な態度で


冷たく、そう告げる


「減るもんでも無いし、一台くらい


 車使わせてくれればいいんだがな...」


「....まあ、雅からしたら車を貸さなければ


 その間に自分たちは"征佐"の事を


 探すことができるから、


 こっちに車を貸さない方がいいと


 思ったんじゃないか?」


「―――意外とケツの穴の小さい女だな」


「―――Hah!」


「そうは思わないか―――? 


 ジャン―――?」


後ろの座席で噴き出しているジャンを


善波がフロントミラー越しに覗き見る


「"チゲェ"ネェ―――


 ゼンバサン―――?」


「・・・・!」


善波と征四郎が顔を見合わせる


「どこで覚えたんだ? ....そんな言葉――――?」


「ジャバニーズテレビで見たヨ」


「・・・・」


「・・・・」

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