第30話

「ダメだ。どうやら今、代わりの車も


 屋敷には無いらしい」


「代わりの車が無いって...」


広い駐車場の屋内を征四郎が見渡す


「これだけ人がいる家だったら、代わりの車くらい


 いくらでもあるんじゃないのか?」


「それが、よく分からんが....


 他の尤光や雅たちが自分の部下を使って、


 この家の屋敷の車を全部乗ってったみたいだな」


「・・・・」


「ドウしたの? セイシロウ?」


「・・・いや」


「これだけ広い叶生野荘だからな。


 車無しで移動するのは時間がかかる」


「――――」


「とにかく、別のこの屋敷の


 使用人の車でもいいから、


 使えるかどうか聞いてみるか」


「そうした方がいいか....」


「一旦、中に戻ろう」


「・・・・・」


「征四郎くん?」


善波が後ろを振り返ると、パンクした


タイヤの辺りを征四郎がしゃがみ込みながら


見ている


「....いや」


「―――――、」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ああ、どうやら後少ししたら、


 車が屋敷に戻ってくるみたいだ」


「戻ってくる?」


「屋敷の人間が、今外に買い出しに行ってるから


 そいつが戻ってきたらその車を使えると


 近藤が言ってたな」


「――――、」


「クルマないと、コマルでしょ?」


「そうだな」


駐車場から屋敷の中へと引き返すと、三人は


再び 応接室のテーブルにつく


「そう言えば....」


「・・・何だ?」


特にやる事が無いのか、人差し指と親指で


伸び切った髭を引いている善波の方に


征四郎が向き直る


「昨日、俺たちが行った"神代"の集落―――....」


「ああ、征佐はいなかったな」


「それはそれで仕方が無いが....!」


"ピンッ"


引き抜いた自分の髭(ひげ)を、善波は


人差し指で絨毯の上に弾く


「一つ、気付いたんだが....」


「―――何がだ」


「・・・・・」


"ガシ ガシ"


元々、今回の御代の件には殆ど関心が無いのか、


緊張感の無い表情で善波は頭を雑にかく


「昨日行った神代の集落では、


 その集落の男子の名に


 "征"の字をつける―――」


「・・・・」


ふと、征四郎がジャンの方に目を向けると


ジャンも自分の話にあまり興味が無いのか


目を閉じて下を向いている


「男子の名前に"征"の字を使うのは


 俺の家―――...


 "鴇与家"と、同じ様な形式だ」


「ぁああああああぁあ」


「・・・・」


「....それで?」


欠伸(あくび)をしている善波を無視して、


そのまま話を続ける


「それに、神代の集落の中で使われている姓には


 "鳥"に関わる字や、その他の特徴―――」


「トリは、キレイね」


「これは、鴇与家の名字にも


 かなり関りがあると思う」


「・・・・」


そろそろ昼時で腹が空いているのか


気の無い表情で善波が俯きながら


テーブルを見ている....


「これから考えると、神代の集落、そして、俺の


 "鴇与家"には、何か深い繋がりみたいなものが


 あるんじゃないか....?」


「ああ、そうかも知れんな」


「....そうでしょう?」


薄々その事には気付いていたのか、余り驚かず


善波は無表情で話を聞いている


「そして、今回の御代の後継ぎと言われている

 

 "征佐"――――」


「ああ、そう言えば、その征佐も


 征の字を使うんだったな」


「"セイ"ってのは、ドウいういみ?」


「・・・・」


二人に構わず、征四郎はそのまま話を続ける


「征の字を名前に付け始めたのは、


 神代の集落の先祖から数代後の御代、


 叶生野 征和からだと聞いた....」


「・・・・」


目線を合わせない様にしているのか、善波は


黙って征四郎の胸元辺りを見ている


「―――けっこう、体格がいいんだな。」


「―――ええ。」


「セイシロウは、つよそうネ」


「―――ああ」


「・・・・」


二人が話題を変えようとしているのを


何となく感じるが、そのまま更に話を続ける


「つまり、"征佐"の存在を知るには、


 "征"の字を使う一族、


 この叶生野荘の神代の集落や


 俺の家、"鴇与家"のその成り立ちを知れば


 かなり、征の字に関して色々


 分かって来るんじゃないか....!」


「・・・なるほどな」


話に関心が出て来たのか、善波が椅子を座りなおす


「とりあえず、そう思って、


 今、俺の実家に鴇与家の系図の写しを


 送ってもらう様に手配してるんだが....」


「すぐ来るのか?」


「少し時間はかかると言ってたが、


 午後になれば多分携帯で見れる様になると思う」


「―――そうか。」

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