第29話

「・・・・・」


「ガチャ」


寝室で目を覚ますと、征四郎は


二階から一階の応接室に下りて扉を開ける


「・・・・」


広い、招待客用のテーブルがいくつも並んだ


部屋の中には、この叶生野家の使用人以外


他の叶生野の一族の姿は見えない


「(・・・・)」


適当に空いてるテーブルの椅子に腰を下ろすと、


部屋の隅にいる近藤が目に入ってくる


「(―――――)」


「ガチャ」


「セイシロー!」


「ジャン・・・」


「今日は、いいあさネ」


ジャンが少し遅れて部屋の中に入ってくる


「あれ? 今日は、誰もいないみたいネ」


「・・・・」


「みんな、"セイスケ"をさがしに行った?」


「・・・・」


この場に叶生野家の他の人間がいない事に


何か関心を持っている様子に見えるが、


それより昨日の夜の事が、征四郎には気にかかる


「・・・ワォ」


「....ジャン、おまえ、昨日...」


自分の側にジャンが座ると、征四郎が顔を向ける


「―――ナニ? きのウ? 何かあっタ?」


「・・・・」


「いや....!」


何かあったのかも知れないと思い、征四郎は


無表情でその様子を伺い見るが、


ジャンの様子はいつもと変わらないようにも見える


「お前、昨日の夜....」


「ヨル? よるがどうかした?」


「昨日俺たちが帰った後、


 お前、庭の外で雅と会ってなかったか?」


昨晩、征四郎は自分の部屋の下で


雅とジャンによく似た男が


話をしていた事を問い質す


「・・・


 オー、 ミヤビね」


「・・・会ってたのか?」


「・・・・」


何も返事せず、あまり人気の無い部屋の中を


ジャンが見渡す


「それは、よくワカラナイよ....!」


「・・・・」


"ガラ"


「朝食で御座います――――」


「ワオ、セイシロー ショクジの時間ネ」


「・・・・」


「・・・・」


「オゥ、コレ、ジャパニーズ、


 "ワショク"じゃナイ?」


「本日の朝食は、ジャン様のお気に召されるよう


 我々執事一同が考え、懐石料理を


 お出しいたしました――――」


「カイセキ? なに? ソレは―――?」


「(――――、)」


あまり、話の腰を折るのも何だと思ったのか


それ以上深く尋ねる事はせず、征四郎は


近藤が目の前に置いた懐石料理の椀(わん)に


箸を付ける――――


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ちくしょうっ!


 何なんだっ!? こいつはっ!?」


「・・・・?」


「この野郎っ!?」


"ゴンッ!"


「ナニ、あれ? クルマけってるよ」


「――――、」


「ダメだ、ダメだ!


 こりゃ、すぐには直らんぞ!?」


「善波さん...」


朝食を食べ終えた征四郎、そしてジャンが


善波との約束通り屋敷のガレージに顔を出すと、


そこには自分の車の前で大声を上げている


善波の姿が見える


「"パンク"だな....っ! こりゃあ」


「パンク?」


「昨日は何ともなかったんだが...」


「ウォウ、 コレ、 ヒドイね」


"シュゥゥゥウウウウウウウ"


善波の車の後ろ側のタイヤを見ると、


その後部側のタイヤから空気が漏れ出し


車の車体が軽く傾いているのが見える


「・・・パンクで、普通こんな空気音がする程


 空気が漏れる事があるのか?」


"シュゥゥウウウウウウウウーーーーー


「いや、――――」


しゃがみ込みながら、善波は


空気が漏れているタイヤに手を伸ばす


「パンクしてるのに気付いて、


 自分で修理しようと思って色々やってたら


 余計ひどい事になっちまってな....」


「・・・て事は、昨日神代の家に行った


 帰り道でパンクしたって事か?」


"パン パン"


「おそらく、そうだろうな....!」


手をはたきながら、善波は立ち上がる


「これじゃ、今日はこの車、使えんぞ」


「かわりのタイヤとかアルんじゃないの?」


善波が


「しまった」


と言うような表情を浮かべる


「いや、俺も叶生野の家に来るのは


 急だったからな、


 車に替えのタイヤを積んでないんだ」


「―――別の車のタイヤ


 使えばいいんじゃないか?」


「....それは無理だ」


"バンッ!"


「っ」


パンクしたタイヤを蹴り飛ばしながら


善波が向き直る


「この車は外車だからな。


 タイヤもこの辺りの店じゃ、


 簡単には手に入らん」


「・・・・」


今まで興味が無かったが、確かに善波の車は


言う様に日本ではあまり見かけない様な


車体をしている


「....代わりの車は無いのか?」


「・・・そうだな。


 とりあえず、今近藤に聞いてみるから、


 少しそこで待っててくれ」


「・・・・」

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