第32話
「ずいぶん、集まってるな――――」
「・・・・・」
"キィッ"
「ガチャッ」
三人が車を下りて藤道の邸宅の前に着くと、
そこに大勢の人影が集まっているのが見える
「親父が死んだから、おそらく村の外から
叶生野に関りがある人間が集まって
来てるんだろうな....」
「....葬儀に参列しに来たって事か?
もう葬儀の日取りは決まってるのか?
善波さん?」
「どうだろうな...」
屋敷の駐車場に停められている車の周りに
集まっている人影に、善波が目を向ける
「なにせ、グループ企業の人間だけでも
相当な数の人間がいるからな...
ある程度、日を置かんと上手く
葬儀の日取りも決められんだろうな....」
「・・・・」
「とりあえず、その辺りは近藤が仕切ってるから、
俺たちは特に何もする必要はない」
ザワ
ザワ
ザワ
「・・・善波!」
「禎三(ていぞう)・・・!」
駐車場にまばらにいる人影の中から、
一人の男が善波に向かって大声を上げる
「大変な事になったな...」
"ザシャッ! ザシャッ! ザシャッ! ザシャッ!
恰幅(かっぷく)のいい、スーツを着た男は
善波を見つけると少し慌てた様な素振りで
こちらに駆け寄ってくる
「ああ...」
「しかも、次の御代がお前や尤光ではなく
"征佐"だとか言う...」
「・・・聞いてるのか」
「・・・・」
禎三が善波の言葉を聞いて、何か
含みを持った様な表情を見せる
「....今、この叶生野荘のほとんどは
その話題で持ちきりだ ・・・そちらは?」
隣にいる征四郎 ジャンの姿を見て
禎三が視線を二人に向ける
「ああ、こっちは、
"鴇与"。 鴇与征四郎だ」
「・・・・!」
征四郎の様子を見て禎三の表情が変わる
「き、君が、鴇与家の・・・」
「―――どうも」
「そして、こっちが、 ....あー、知ってるか?
フランスとか、アメリカで
石油会社をやってる...」
「ジャン・アルベルト・トオノネ」
「フランス・・・」
「知らないのか?」
「・・・・」
聞き覚えが無いのか、禎三は目を少し細める
「・・・叶生野の会社も、今は世界の
そこら中に広がってる。
・・・・
俺みたいな狭い日本で商売してる
人間には、少し聞き覚えが無いな」
「そうか....」
「・・・」
「・・・」
禎三から視線を外し、善波は周りに集まっている
人影に目を向ける
「かなり、人が集まってるみたいだな...」
「ああ―――」
周りに集まっているスーツ姿の、
会社員の格好をした集まった
弔問客(ちょうもんきゃく)を見て
禎三は沈んだ表情を見せる
「御代が急に亡くなるとはな....」
「・・・急な話だったからな」
「・・・・」
再び、屋敷の周りに禎三が目を向ける
「御代が亡くなったと聞いて今、この叶生野荘には
叶生野と関りのある人間がかなり
集まって来てるらしいぞ」
「....そうみたいだな」
「・・・・」
屋敷の周りに集まった多くの人影を
禎三 善波 征四郎、ジャンは無言で見る
「―――それより、何か用か?
会長に話でもあるのか?」
目を伏せて下を向いている善波に、
禎三が話し掛ける
「・・・いや、会長、と言うよりは
お前に話があってここに来たんだが...」
「ああ... 藤櫻(とうおう)會の所には、
出入りしたくないって事か?」
善波は、軽く含み笑いをする
「ああ、お前の爺さんのとこの藤櫻會は、
何かと面倒だからな...
お前の桔梗会の方が話が通る」
「・・・何の用だ?」
「・・・・」
ぼんやりと、善波が藤道の屋敷の方を見る
「ここじゃ、何だから少し、
落ち着ける様な場所は無いか?」
「・・・だったら、屋敷に俺の書斎がある。
そこでどうだ?」
「それがいいかもな」
「―――付いてきてくれ」
"スッ"
背を向けると、禎三は玄関の方に向かって
歩いて行く
「カレは、ダレネ」
前を歩く禎三を見ながら、ジャンが善波に問い質す
「ああ、奴は、叶生野にいくつかある
企業群の中でも、中国地方とかで
物流をやってる、藤道財閥の会長
藤道 仁左衛門の息子だ」
「...."オンゾウシ"ってこと?」
「"御曹司"――――、
まあ、今は昔と違って親族経営の会社も
あまりない。 有り体(てい)な言い方をすれば、
御曹司と言う言葉が当てはまるかも知れんが....
別に、奴が藤道グループの
次の後継者と言う訳でも無い」
「―――ソウ」
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