第8話

「―――そうか、分かった」


「いえ―――」


「ガチャッ」


ドンッ


「――― っ」


突然、征四郎が屋敷のドアを開けると


そのドアの中から明人が出てくる


「――――そこを退け。」


「・・・・!」


ドアの前に立っている征四郎を、明人が睨みつける


「・・・・」


「スッ」


無言でドアの前から下がると、征四郎は


明人に道を開ける


「・・・


 御代の座を狙っているかどうか知らないが、


 あまり、出過ぎた真似をすると


 どうなるか――――」


「・・・ええ。」


「ドタンッ ドタンッ ドタンッ ドタンッ」


征四郎に目線もくれず、明人は


部屋から玄関に繋がる通路を抜けて行く


「何だ、征四郎くん―――」


善波が少し声を張りながら、征四郎を見る


「何も、あんな扱いを受けて―――


 一言くらい言ってやったらどうだ?」


「(―――


  "それ"ができれば――)」


今でこそ、征四郎は


鴇与家を纏める身として、


この叶生野家の中でもある程度の立場を


保っているが、所詮叶生野の正流ではない自分が


叶生野家の人間に楯突けばどうなるかは


この叶生野の人間たちと関りを持っていれば


ある程度は分かる


「....それより、中に入ろう。 善波さん――――」


「.....そうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おう、一男さんっ! 久しぶりだなっ!?」


「(――――)」


二人が通路からドアの中へと入ると、


一人の和服を着た老人がテーブルのソファーに


座っているのが見える


「善波、それと、確か――――」


「ああ、こっちは、鴇与家の、征四郎だ。


 知ってるだろ?」


「ああ、確か、海外で色々されてるとか――――」


「・・・どうも。」


短い口調で、目の前の老人に向かって


征四郎は言葉を返す


「それより、今、明人が来てたみたいだなっ!?」


「.....ええ。


 何でも、"征佐"がどうだとか。」


「――――なら、話は早い。」


「ドスッ」


「征四郎君も座ったらどうだっ!?」


「(――――、)」


目の前にいる老人にまるで断りを入れる事なく、


テーブルの傍まで近づくと善波は


老人とテーブルを挟んだ反対側のソファーに


どかりと腰を下ろす


「――――....」


それに合わせて征四郎も隣の空いている


ソファーに腰を下ろす


「大分短い話だったな!?


 明人とは何を話していたんだっ!?」


「え、ええ――――。」


「(・・・・・)」


「一男さんはっ! 


 "征佐"の事は知ってるのかっ!?」


「い、いえ.....


 先程、明人くんにも話した通り


 私も、何がなんだか――――」


「何でもいいっ! とりあえずっ! 


 知ってる事があったら!?


 何でも話してくれんかっ!?」


「――――、」


声の大きさに戸惑っているのか、


保瀬 一男は頭をかきながら


目の前のテーブルの上に置かれた置物を見る


「・・・


 何でも、御代の跡目を継ぐのが


 その、"征佐"と言う男だと言うのは


 聞いたが....」


「―――そうだ。」


一男の言葉に、善波は短く答える


「とは申されても――――、


 私も、この叶生野の家で


 働くことになってから


 四十年以上は経ったが.....」


"保瀬 一男"


叶生野の家とは、近いとも言えないが


親戚縁者の家系で、あまりにも増えすぎた叶生野家の


御代としての仕事を補佐するような形で


生前尚佐と関係を持っていた男だ


「私は、てっきり、善波くん。


 君や、長女の尤光が次の御代に


 なるのかと―――....」


「(・・・?)」


「ガハハッ!」


一男の言葉に、善波は大きな笑い声を上げる


「尤光はともかくとして、


 俺が御代になれるわけはないだろうっ!?」


「・・・・」


「大体、俺はすでに御代にはならんと


 一族の者には通してるからなっ!?


 親父も、それは当然


 知ってたはずじゃないかっ!?」


「・・・・・」


「(―――...妙だな)」


善波の言葉に、物を含んだ様な


顔つきをしている一男を見て、


征四郎が違和感を感じる


「とにかく、知ってる事があったらっ!


 ―――話してくれないかっ!?」


「それなら....!」


一男は、自分と差し向いに座っている


善波 そして征四郎に向かって口を開く

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