第4話

「な、何かの間違いなんじゃないのか!?」


「―――いえ」


近藤は、自分の傍に詰め寄って来た正之から


距離を置き部屋の中にいる人影を見渡す


「―――征佐何て名前の人間、


 この叶生野の家にはいないんじゃないか」


「"征佐"様は、確かにこの叶生野の


 人間で御座います.....」


「――――私たちが知らない、


 誰か、尚佐お祖父さまが別の女に産ませた子が


 いると言う事かしら....」


「・・・・」


尤光が、チラリと征四郎を見る


「....そうだとしても、


 全く聞き覚えの無い名前だ」


「書き間違いとかじゃないか?」


「――――ガハハッ!」


「.....?」


正之と明人の話に、叶生野家の長男である


善波が大きな笑い声を上げる


「―――親父が、そう決めたんだからっ


 そう言う事だろうっ!?」


「い、いや―――」


「近藤っ!」


「....はい。」


「その、征佐と言うのは、どんな奴なんだっ!?」


「―――征佐様は...」


「どんな奴だっ」


善波に目線を合わせない様にしているのか、


近藤が伏し目がちに床を見ながら呟く


「征佐様は、この叶生野荘の中に


 いらっしゃいます――――」


「この、叶生野の村の中にかっ!?」


「そうで御座います――――....」


"叶生野荘"


今現在、征四郎たちがいる


御代 尚佐の邸宅周辺に広がる


叶生野家に縁(ゆかり)のある一族が


家を建てた場所で、古い歴史がある


叶生野の人間の数が次第(しだい)に


尚佐の邸宅から広がり、この辺り一帯は


一つの村の様になっている


「叶生野荘にいるのか.....!」


「だったらっ! その、"征佐"をっ


 今すぐここに連れてくれば


 いいんじゃないのかっ!?」


「・・・・」


伏せていた目を、近藤が善波に向ける


「.....それはできません」


「―――何を言っている」


「征佐様は、あなた方叶生野の一族の者とは違い


 非常に神経質な方でございます.....」


「神経質っ! それが何だっ!?」


「従って、いくら尚佐御大が、


 征佐様を次の御代にお定めになられた所で


 征佐様は、おそらく次の御代になる事を


 拒否されることになるでしょう.....」


「.....何を言ってるんだ」


言葉の意味が分からないのか、明人が


戸惑った様な表情を浮かべる


「―――それでは、次の御代の意味がないだろう。


 それでどうやって一族を


 纏(まと)めると言うんだ?」


「・・・・」


明人から視線を外すと、近藤は正之に目を向ける


「_____ガサッ」


「・・・・!」


懐の中から別の紙を、近藤が取り出す


「善波、尤光、正之、明人、雅、綾音、


 征四郎、それと――――」


部屋の中に集まっている叶生野の人間、


そして、征四郎やこの場にいない


他の一族の名前が部屋の中に響き渡る―――――


「これらの者は、私が死んだ後(のち)、


 この"征佐"を補佐する立場として


 この叶生野の家の御代に変わるべき


 存在となって欲しい―――――」


「な、何を言ってるんだ?」


「この、叶生野荘の中にいる、征佐の承諾を得て


 征佐と共に、この叶生野家を


 纏めて欲しい―――――」


「――――、!」


「じゃ、じゃあ.....!」


「・・・書簡には、その様に


 書かれております――――」


「(征佐―――....)」


「じゃ、じゃあ、その征佐から許可を取れば、


 次の御代になれるって事か?」


「――――....」


「(――――、)」


部屋の中にいる、叶生野の一族の顔を


征四郎が見る


「(――――征佐...)」

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