第6話 告白

それから数日が経ち、俺は雅弘にメッセージを送った。


「海に行かないか?」

「いいな。海。愛美ちゃんの水着姿、見れるかもしれない。最高じゃないか」

「俺もひなの水着姿見たい」

「ひなちゃんも良いスタイルしてるよな」

「おい。変な目で見るなよ」

「わりぃ、わりぃ。冗談だよ」

「まあ確かにひなも良いスタイルしてるけどな」

「あ、そうだ。だったら柏木海水浴場にしないか?」

「柏木海水浴場?なんで?」

「あそこ、バーベキューセット貸してくれるところがあるんだよ」

「へえ。皆でバーベキューか。それもありだな」

「だろ?食材は皆で持ち寄ったらいいと思うんだ」

「確かにな。それはいいな」

「よし、そうと決まったら愛美ちゃんに連絡してみるよ」

「じゃあ俺は、ひなに連絡しておくよ」


 そして俺は、ひなに連絡した。


「バーべキュー?私やったことない」

「そうか。なら丁度良いじゃないか」

「うん」

「皆で食材を持ち寄るんだ」

「わかったわ」


 四人で相談して皆がそれぞれ何の食材を持っていくかを決めた。バーベキューセットの予約の連絡も入れたし、準備は完璧だ。

 それから数日が経ち、海へ行く日になった。柏木海水浴場へ向かうバスに乗り込む。

 バス停に行くとひなが来ていた。


「おはよう、ひな」

「おはよう。随分大荷物ね」

「食材入ってるからね」

「そんなに食べきれるの?」

「残ったら持って帰ればいいだけの事だよ」

「そう」


 それからバスに乗り込み、途中で雅弘と愛美ちゃんと合流する。雅弘は大きなリュックサックと膨らませた浮き輪を手に持っていた。


「いや、雅弘。お前、すでに浮き輪膨らませてきたのかよ」

「だって向こうで空気入れるの面倒だろ」

「あははは。雅弘君、面白い。遊ぶ気満々じゃん」

「そりゃそうだよ。もうこの日を楽しみにしてたんだから」


 そしてバスは、柏木海水浴場に到着した。


「着いたー。海だー」

「やったー」


 雅弘と愛美ちゃんのテンションが上がる。


「海綺麗」

「そうだな。天気も良くて良かった」

「うん」


 俺とひなもテンションが上がってきた。


「早速着替えて海入ろうぜ」

「うんうん。私達、更衣室行ってくる。行こう。ひな」

「うん」

「じゃあ俺達も着替えてくるか」

「そうだな」


 それから更衣室に行って水着に着替えて、ひな達を待っていた。すると女子更衣室から出てきたひな達が水着姿になっていた。


「じゃーん。どう?水着」

「最高です」


 雅弘のテンションがマックスになった。


「ひな……」

「な、何よ。あんまりジロジロ見ないでよね」

「いや、凄く可愛いなって」

「うるさいわね。ジロジロ見ないで」


 ひなと愛美ちゃんの水着姿に癒されて見惚れていると、雅弘が言う。


「よし、泳ごうぜ」

「おー」


 愛美ちゃんと雅弘が海に向かって走っていった。するとひなが体を動かしていた。


「ひな。何してるの?」

「準備運動」

「きっちりしてるな」

「海に入るんだから、準備運動しておかないと危険よ。愛美にもちゃんと言わないと。危ないわ」

「あはは。大丈夫だって」

「何言ってるの。海は危険よ」

「浅瀬で遊べば大丈夫だよ」


 念入りに準備運動したひなも、ようやく海の中に入った。水をかけあって遊ぶ。


「なあ優斗。ちょっと遠くまで泳ぎに行かないか?」

「いいよ。行こう」

「愛美ちゃん。ひなちゃん。俺達、ちょっと遠くまで行ってくるよ」

「気を付けてね」


 それから雅弘と一緒に遠くまで泳ぎに行った。足がつかなくなってきた頃、俺は足をつった。


「痛っ。痛っ。やばい」

「どうした。優斗」

「足つった」

「俺に掴まれ」

「悪い」


 なんとか雅弘に捕まってゆっくりと浅瀬へ帰る。


「どうしたの?戻ってくるの早かったね」

「優斗が足つっちゃって」

「ほら見なさいよ。準備運動しないから」

「ご、ごめん。大丈夫だと思ったんだ」

「ねえ。そろそろバーベキューの準備しない?」

「うん」

「そうだね。準備始めようか」


 砂浜に上がってバーベキューセットを取りに海の家に行く。


「すみません。予約入れておいた加藤ですけど」

「ああ、はい。加藤様ですね。こちらのバーベキューセットをお使い下さい」


 海の家のお兄さんから渡されたバーベキューセットを雅弘と一緒に運んだ。それから愛美ちゃんとひなに食材を運んできてもらい、準備を始める。火起こし器に炭を入れ、新聞紙に火を点ける。煙突効果で火が少しずつ大きくなっていき、火が大きくなっていくのを待つ。墨が燃えて白くなってきたところで、コンロに移す。


「よし、火起こしができた。さあ焼こうぜ」


 肉と投入する。良い感じの美味しそうな匂いが鼻にくる。


「おお、良いぞ。良い感じ」

「美味しそうに焼けてきたね」


 肉が焼けたので、肉を食べる。


「うん。美味しい」

「この肉、凄く良いやつじゃない?」

「肉って誰が持って来てくれたの?」

「私」

「ひなか」

「ひなちゃんが持って来てくれたのか」

「うん。せっかくだから良いお肉買っておいたの」

「さすが」

「めちゃくちゃ美味いよ」

「ほんと最高だね」


 肉を堪能し、それから野菜を焼き始める。キャベツ、ピーマン、しいたけ、エリンギ、トウモロコシ、玉ねぎ。それぞれの野菜が焼けるのを待つ。


「おー、良い感じ」

「美味しそう」

「やっぱり雰囲気あるなあ」


 焼き上がった野菜を食べる。


「美味い」

「うん。美味しい」

「外で食べると美味しいよね」

「うんうん」

「ひな。初めてのバーベキューの感想は?」

「楽しい」

「そうか。よかったよ」


 それから満腹になるまで、バーベキューを堪能した。


「ふうー、苦しい。俺もうダメ」

「私もお腹いっぱいだなー」

「俺も」

「私も」

「じゃあちょっと休憩したらバーベキューセット返しに行って、それからまたひと泳ぎしようぜ」

「そうだな」


 それから少し休憩して、俺と雅弘はバーベキューセットを返しに行った。


「なあ、優斗」

「ん?どうしたんだ?」

「俺決めた。今日、愛美ちゃんに告白する」

「ええ?いつ告白するの?」

「バーベキューセット返したらすぐだ。決めたらすぐ実行だ。もし断られて雰囲気悪くなったらごめん。先に謝っておく」

「ええ。帰りに言えよ」

「いや、優斗にも聞いていて欲しいんだ。お前のおかげでもあるから、俺が散っていく姿を見届けて欲しい」

「散るって。自信ないのか?」

「分からない。正直不安だ。でもこの気持ち、今すぐ伝えるべきだと俺は思っている」

「そうか。わかった」


 バーベキューセットを返してきて、浜辺に戻ると愛美ちゃんとひなが海に入って遊んでいた。


「おかえりー」

「愛美ちゃん」


 雅弘は真剣な顔をして、愛美ちゃんの名前を呼んだ。


「どうしたの?」

「好きです。俺と付き合ってください」

「うん、いいよ」

「ほ、ほんとに?」

「うん。雅弘君といると楽しいしね。私なんかで良ければ」

「やったぁああああ」

「おめでとう。雅弘」

「ありがとう、優斗。お前のおかげだよ」

「よかったな」


 雰囲気は悪くなる事もなく、むしろ良い雰囲気になった。そのまま四人で海を楽しんで、その日は帰る事になった。雅弘と愛美ちゃんは途中でバスを降りて、雅弘は愛美ちゃんを送っていった。俺とひなもバスを降りて、ひなを送っていく。


「よかったな。雅弘。愛美ちゃんと付き合えて」

「そうね」

「ずっと好きだって言ってたからな」

「まさか私達がいるあのタイミングで言うとは思わなかったけど」

「ははは。そうだよな」

「もう愛美と沖野君と四人で遊ぶ事もあまりできなくなるわね」

「なあ、ひな」

「何?」

「……今度は、俺と二人で出かけないか?」

「えっ?」

「夏祭りに行こう。二人っきりで」

「別にいいけど」

「本当?」

「うん」

「そっか。そっか」

「何よ。ニヤニヤして気持ち悪いわね」

「いや、嬉しいんだよ。またひなと出かけられる事が」

「ずっと二人で過ごしてきたじゃない」

「そ、それは……そうだけど」

「変なの」

「と、とにかく。夏祭り約束な」

「わかったわよ」


 そしてひなの家の前に着いた。


「それじゃ、また」

「うん」


 ひなが家に入っていくのを確認して、俺も家へと帰った。やった。ひなと二人っきりで夏祭りだ。俺はその日、嬉しくてなかなか眠る事ができなかった。


 それから数日が経った。雅弘から連絡が来た。二人でツーショットを撮った写真が送られてきた。仲良く二人で初デートした記念に撮ったのだそうだ。俺がひなと付き合っていた時に惚気ていたお返しだと言ってきた。お前もひなちゃんとよりを戻せるように頑張れよ。応援していると言われた。俺は、夏祭りに行く約束をしたと言うと、ひなちゃんの浴衣、俺も見たかったと返ってきた。愛美ちゃんに怒られるぞと返事をして、俺はその日、買い物に出かけた。スマホの充電器が調子が悪かったからだ。家電量販店へと向かう。その帰り道、暑いしアイスでも買おうと思い、コンビニに寄った。すると入口の目の前にひなが、男と話しているのが見えた。


「ひな」

「優斗?」

「えっ、何だよ。彼氏持ちかよ」


 そして男は舌打ちをして去っていった。


「今の人は?」

「ナンパよ。しつこくて困っていたの。助かったわ。ありがとう」

「そうか。ひなは可愛いからな。気を付けないと」

「う、うるさいわね」

「ひなは?コンビニ行かないの?」

「行くところ」

「何買いに来たの?」

「苺パフェ」

「好きだね。苺パフェ」

「うん」

「俺も今日は、スマホの充電器を買いに行った帰りでさ、アイスでも買おうかなと思って寄ったんだよ。この後、何か予定ある?」

「叔父さんが家に来る事になってるから帰らないと」

「そうか」

「うん」

「じゃあ次会えるのは、夏祭りの時だな」

「そうね」

「それじゃ、また」

「またね」


 ひなと別れて家に帰った。その日はダラダラと過ごした。


 それから数日が経ち、夏祭りの日になった。ひなとは、いつものバス停で待ち合わせている。しばらく待っていると、ひなが浴衣姿でやってきた。


「お待たせ。浴衣着てたら時間かかったわ」

「凄く綺麗だよ。ひな。似合ってる」

「ありがとう」

「それじゃ、行こうか」

「うん」


 ひなは浴衣を着ている為、いつもよりも歩くスピードが遅い。俺はひなの歩くスピードに合わせてゆっくり歩きながら、夏祭りの会場である神社を目指した。神社に着くと人通りが多く、屋台も沢山並んでいて賑やかな雰囲気だった。


「人多いわね」

「そうだな。はぐれないようにしないと」

「そうね」

「とりあえず屋台色々見てみようか」

「そうね」


 ひなとゆっくり歩いて屋台を回る。


「おっ、焼きそば。ひな。焼きそば食べない?」

「そうね」


 二人分の焼きそばを買う。


「座って食べようか」

「うん」


 ベンチに座って焼きそばを食べる。


「やっぱり祭りで食べる焼きそばっていいよな」

「私、初めて食べた」

「そうなの?」

「うん。あまり祭りに来た事ないから」

「そうだったんだ。ひなは屋台の食べ物で何が好きなの?」

「林檎飴」

「じゃあこれ食べ終わったら林檎飴買おう」

「うん」


 焼きそばを食べ終わり、林檎飴を売っている屋台を探す。途中でくじ引き、金魚すくい、射的等があった。


「金魚すくいでもやってみる?」

「やってみる」


 二人分の料金を払い、金魚すくいをする。ひなはすぐに網が破れてしまい、一匹も掬えなかった。


「あっ……」

「あー、ダメか。よし、見てろ。俺が掬ってやる」


 黒い出目金を狙う。しかし俺も金魚を一匹も取る事ができず、網が破れてしまった。


「ああー、やっちまった」


 二人共一匹も掬えなかったのを見て、屋台のおじさんが一匹ずつオマケで入れてくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言い、一匹ずつ金魚が入った袋をもらった。それから林檎飴を売っているところを探して歩き回る。なかなか見つからず、結構歩いたが、ようやく見つけて林檎飴を買う事ができた。


「結構歩いたな。ひな。足大丈夫?痛くない?」

「ちょっと痛いかも」

「見せて」


 ひなの足を見ると、靴擦れを起こしていた。


「なんで我慢してたんだよ。早く言えよ」

「ごめん」

「少し休もう」

「うん」


 再びベンチに座り、林檎飴を食べながら休憩する。林檎飴を食べていると、幼稚園児くらいの男の子がベンチに座った。


「こんばんは」

「あ、こんばんは」

「お姉ちゃん達、恋人なの?」

「えっ……」

「違うわ」


 俺が返事に困っていると、ひなにはっきりと言われた。ちょっと傷ついた。


「じゃあなんで二人でお祭り来てるの?」

「こらっ!こっち来なさい。……すみません」


 男の子のお母さんらしき人が、男の子を連れていった。なんだか変な雰囲気になってしまった。


「あはは。子供って何でも聞きたがるよな」

「そうね」


「……なあ。ひな。どうしてひなは、俺と一緒に祭りに来てくれたんだ?」


 俺は思いきってひなに聞いた。


「誘われたから」

「そう……。そりゃ……そうだよな」

「うん」


 そこで会話が終わってしまった。


「足大丈夫か?」

「そうね。楽になったわ」

「そういえば花火大会もするんだよ。見ていかないか?」

「見たい」

「歩ける?」

「うん」


 それから二人で花火がよく見えそうな場所まで移動した。時間になり、花火大会が始まった。綺麗な花火が沢山打ち上がる。ひなはスマホを取り出して動画を録画し始めた。


「綺麗」

「やっぱり夏は花火見ないとな。日本人で良かったよ」

「そうね」

「あ、あのさ、ひな……」

「何?」

「もう一度、俺と付き合ってくれないか?」

「えっ?」

「その……。俺からひなをフッてしまったのかもしれない。でもそれはきっと何かの間違いなんだ。俺はひなの事が好きだ。その気持ちに嘘はない」

「…………」


 ひなは黙ったままだった。


「ひな……?」

「嫌よ。だってあなたは私に何かを隠している。それが気に入らないの」

「それは……」

「言えない事なの?」

「俺……。実は……初恋サービスを使ったんだ」

「初恋サービス?」

「恋愛の記憶を全て消去して、次の恋も初恋になるっていうサービスなんだ。それで俺は、ひなとの思い出を全て消したみたいなんだ。俺の身に何が起こったのかは分からない。そんなものを使ってまで、記憶を消したいと思ってしまったんだと思う。でも俺は、またひなの事を好きになったんだ。またひなに恋したんだ」

「……なるほど。腑に落ちたわ。優斗、最近ボケすぎてるからどうしたのかと思ったのよ。そういう事だったのね」

「そうなんだ。今まで黙っていてごめん」

「でも勝手よね。勝手に私を振っておいて私の記憶を消して、それでまた好きになったから付き合って欲しいだなんて」

「ごめん……。なんで俺もそんな事をしたのか、今となっては全く思い出せないんだ。でも今、ひなの事が好きな気持ちに絶対に嘘はない」

「そんな事言って、また私の事が嫌になって記憶を消すんじゃないの?」

「嫌になんて……。嫌になんて……ならないよ。今度は絶対、記憶を消したりしない」

「ちょっと考えさせて」

「わかった」


 ひなからの返事は、保留という事だった。それから花火を見終わり、ひなを家まで送っていって家に帰った。自分の部屋に入り、すぐベッドに寝転ぶ。そしてスマホを開けて、残っていたひなとのツーショットの写真を見る。


「あーあ。フラれちゃったな……。なんでだよ。どうして俺は、初恋サービスなんて使ってしまったんだよ……。馬鹿かよ、俺は」


 そう思いながら目を閉じて眠りについた。

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